約 3,541,331 件
https://w.atwiki.jp/artess/pages/56.html
「ただいま、アルフ」 「ただいま」 「二人ともお帰り~」 アルフがフェイトに抱きつく。 「大丈夫だったかい?」 「うん。ほらこの通り」 ポワッと宙に浮かぶジュエルシード。 「さっすがアタシのご主人様!で、アスランも大丈夫かい?」 首だけをアスランの方へ向ける。 「そんなとってつけたみたいに言われてもな・・・」 「ま、いいじゃないか。あんたも無傷みたいだし」 頭の先から足の先まで見て、これといった外傷のない事を指摘する。 「まあな」 「それに・・・昨日の子もいた」 「昨日のって・・・フェイトの邪魔をしたっていう子かい?」 「うん。後・・・」 チラッとアスランに視線を向けて 「アスランの知り合いの人もいた」 「・・・戦ったのかい?」 アルフがアスランを見据える。 「・・・ああ」 一息置いて答えるアスラン。 「・・・ま、何にせよ無事ならいいじゃないか」 「・・・そうだね」 アルフの言葉にフェイトも同意する。 「とりあえず俺は部屋で休むよ。あ、フェイト」 「はい」 「後でまた特訓に付き合ってくれないか?」 「わかった」 それだけ言葉を交わし、アスランは自室へと戻る。 部屋に戻ったアスランはベッドで横になり、天井を見上げながら先程の戦闘を思い出していた。 今日のキラの動きを見る限りではまだ魔法を使い始めて何日も経っていないようだった。 いや、昨日の時点で結界内でバリアジェケットを装着していないことから察するに、 力に目覚めたのは昨日の夜か、今朝のジュエルシードの封印の時かもしれない。 それにキラ自身ジュエルシードの事をよくわかってないみたいだったし。 だが、目覚めた以上はこれからこっちの世界にも深く関わることになるだろう。 そうすれば、次に会った時には今日よりずっと強くなっているかもしれない。 今日の戦闘では自分自身もほぼ無傷で勝てたが、この次はこうはいかないだろう。 だが、俺は負けるわけにはいかない。 プレシアとの約束を、フェイトの邪魔は誰にもさせない。 その為にも、俺はもっと強くならないといけない。 「・・・・・・お、れ・・・は」 戦闘の疲れが出たのか、昨日一睡もしていないことも重なり、 段々と意識が遠のき、アスランは目を瞑る。 そして意識は深い闇へと落ちていく。 翌朝。 「それじゃ、結界を張るね」 「お願い」 ユーノの足元に魔方陣が展開する。 そして広がる空間。目に見えない空間だが、魔力の素質を持つ者は感じることの出来る空間。 その空間はある程度の広さまで広がると、膨張を停止する。 「レイジングハート」 『Yes、My Master』 「ストライク」 『OK、Mastar』 「「セッート、アーップ!!」」 言葉と共に輝く赤き宝玉と白き結晶。 その輝きがそれぞれの主を包み込み、光がはじけると、それぞれのバリアジャケットが装着される。 「それじゃ今日からキラさんも特訓に参加するんだけど、その前にストライクの事を教えてもらいたいんだ」 「ストライクの事を?」 「はい。僕は多少魔法の知識はあってもそのデバイス、『ストライク』を良く知らないので・・・」 「あ、私も知りたい!」 なのはがユーノの言葉に便乗する。 「ストライクに関しての知識は契約の時に全て頭に流れ込んできたから説明くらいなら出来るけど・・・」 「昨日、赤いジャケットと緑のジャケットがありましたよね。それの説明をお願いしてもらっていいですか?」 「そうだね。それじゃ、ストライク、エールジャケット!」 『OK、Change、エールジャケット』 上半身が輝き、白い服の上から赤いジャケットのような服が発現する。 「えと、これが『エールジャケット』。主に高速移動や空での戦いに向いている、かな」 「一番最初に着てた服だよね」 「うん」 「装備はこのライフルと、盾と、」 右手のライフルを腰にマウントし、肩の白い筒を引き抜き、筒の先から桜色の魔力がサーベル状に発現する。 「このサーベルが二本かな」 同じ筒が左肩にも装着しているのを指で指摘する。 「次は・・・ストライク、ランチャージャケット!」 『OK、Change、ランチャージャケット』 赤いジャケットが光り、緑色のジャケットへと変化する。 そして左の肩から見える大きな大砲のようなものはキラの足元近くまで伸びていた。 「武器は二つ、一つは」 カシャッと右肩のショルダーガードの部分の正面パネルが開き、 バシュッ!!といくつかの魔力弾が発射される。 何もない空へと向かっていく弾は、結界内でかき消されてしまう。 「この拡散型のタイプと、」 左手を上げ、左背面にある大砲を正面へと向け、両手で支える。 「この長距離型バスター『アグニ』の二つだね」 「これも昨日着てた服だよね」 「うん、地面に落とされた時、何とか封印を阻止しようとしてこのジャケットに換装したんだ」 昨日の回想:キラ視点 アスランの蹴りが腹部に入る。 みぞおちを狙ってくるあたり、さすがはアスランといった所だろう。 言葉にならないくらい痛い。 だけど痛いよりも食らった反動で地面に落ちていって激突したら、不味いことになりかねない。 何とか体勢を立て直そうとするが、落下するスピードの方が早い。 直撃は避けたい。そう思ってシールドを掲げようとしたら 「キラさんっ!!」 誰かが僕の名前を呼ぶ。 そして地面と激突すると思ったその瞬間。 僕と地面の間に魔法の壁のようなものが発生し、それが衝撃を和らげてくれた。 それのおかげで地面に安全に着地できた。 「ありがと・・・」 助けてくれた誰かにお礼を言おうとし、先程名前を呼んだ発生元へと首を向け言葉を発しようとしたが、 途中で止まってしまった。 普通なら、視線の先には誰かがいる。 そう思ったのだが、そこには誰もいなかった。 否。正確には、人間の"カタチ"をした者はいなかった。 代わりにそこにいたのは一匹の小動物。 巡る思考、そして一つの結論が弾き出される。 「大丈夫ですか!?」 脳内で弾き出した答えを否定しようとした瞬間に、目の前の小動物は堂々と言葉を発した。 そう、キラの答えは間違ってはいなかった。 助けてくれたのは目の前のフェレット、『ユーノ』であるという事。 自分に今話しかけているのは、高町家のペットの、『ユーノ』であるという事実。 「キラさん?」 再び話しかけれてようやく目の前の現実を理解し、受け止める。 「えと・・・君が助けてくれたの?」 自分的に何をフェレットに話しかけているのかと思うのだが、実際目の前のフェレットは自分に話しかけているのだ。 「あ、はい。衝撃を和らげる為に、浮遊の魔法陣を使ったんです」 そしてその言葉で追加される項目。 自分を助けてくれた『ユーノ』が魔法を使えるという真実。 普通だったらあまりの事についていけないんだろうが、 実際自分自身が今魔法を使っているのだから何ともいえない現状である。 「えと・・・助けてくれて、ありがとう」 「あ、いえ。僕にはコレぐらいしか出来ませんから・・・」 上空に響く、魔力のぶつかる音。 それに反応して見上げる二人。 見るとアスランの銃撃をバリアで防御し、防戦一方のなのは。 そして首を少し動かして見ると、金髪の女の子がジュエルシードの前にいた。 女の子は持っている黒い斧を掲げる。 「まさか、封印を!」 ユーノが驚きながら声を出す。 封印とは先程なのはちゃんがしようとしていたことだろう。(アスランに邪魔されたけど) 「封印されたら、もう手が出せない!」 「えっ!?」 なら何とか封印を阻止しないと。 だが、ここからじゃ距離が遠すぎてライフルが届かない。 もっと遠くまで飛ばせる長距離砲か何か・・・ 『マスター』 不意に響く機械的な声。 『ランチャージャケットを使用してください』 ランチャージャケット・・・・・・そうか!! 「うん、そうだね!ストライク!ランチャージャケット!!」 『OK、Change、ランチャージャケット』 それまで着ていた赤いジャケットが緑色へと変化する。 「これなら・・・っ」 左手に背後の大型のバスター『アグニ』を上空に構える。 「あそこまでいける?」 視線の先には、金髪の女の子。 『No Problem』 「よし・・・」 狙いを定め・・・威嚇するように・・・・・・。 「ストライク!」 『アグニ、バースト』 そして、一発の閃光が空へと駆け上る。 「でも結局ジュエルシードは奪われちゃったね・・・」 昨日の失敗を悔やむキラ。 「でも、今度はそうならないように頑張ろう!」 それを励ますなのは。 「それで、ストライクの換装はその二つですか?」 「いや、もう一つあるんだ」 「もう一つ?」 なのはの記憶にあるのは赤いエールと緑のランチャーのみなのだが、まだあるという。 「うん、ストライク!ソードジャケット!!」 『OK、Change、ソードジャケット』 先程と同じようにジャケットが輝き、変化していく。 そして光が消えて、現れたのは水色に近い、青のジャケットだった。 左手には小型のシールドと左肩に角のようなものがあり、 先程と違って今度は右肩にジャケットと同じ色の大剣が背負われていた。 「このソードジャケットは接近戦用かな。武装は」 左手を上げて、肩の角を持ち、引き抜く。 引き抜かれた角の先から短めの魔力刃が形成される。 「このブーメラン『マイダスメッサー』と」 左手を前に出し、空へと固定する。 バシュッ!!という音と共にシールドから灰色のクローのようなものが発射される。 「ロケットアンカー『パンツァーアイゼン』」 そしてある程度の長さまで行くと、左手のシールドへと収納される。 「そして・・・」 右手を上げ、肩の背面に装着してある大剣を持ち、前に振り下ろす。 振り下ろされた剣の刃の部分に赤い魔力刃が発現する。 「これが、『シュベルトゲベール』この三つかな」 「『エール』、『ソード』、『ランチャー』・・・・・・」 ユーノは驚きの色を隠せないでいた。 レイジングハートも通常のデバイスと違ってハイスペックなデバイスであることには変わりないのだが、 それでもやはり中・長距離型のデバイスで、接近戦には不向きである。 だが、このデバイス『ストライク』はそれぞれのジャケットでそれぞれの状況下での対応を可能にした、 まさしくオールレンジタイプのオールラウンダー型デバイスなのだ。 「とりあえずこの三つ、かな」 「ふぇ~」 なのはもストライクの詳細を知って驚きの表情を浮かべていた。 「・・・ストライクの事はわかりました。とりあえずそれぞれのジャケットの長所を伸ばすようにしていきましょう」 こうして、キラの特訓が始まった。 それからの日々は、 朝はなのはとユーノとの魔法の特訓。 昼は翠屋での仕事。 夜はなのはとユーノとジュエルシード探し&特訓。 というハードな生活を送っていた。 だが、それでもキラは挫けることなく全てをこなしていた。 そして一週間後。 「温泉・・・ですか?」 翠屋の閉店作業をしていたキラは、いきなり士郎から告げられる。 「ああ、明日は他のみんなにまかせてみんなで温泉に行こうかと思っているんだが・・・キラ君はどうする?」 「僕ですか?」 「ああ、キラ君も一緒にどうかと思ってね」 「いや、でもそんな・・・これ以上迷惑をかける訳には・・・」 ただでさえ、どこの誰かも知れない自分を助けてくれて、食事や寝床、仕事までくれている。 それだけでキラは十分に恩義を感じていた。 それに温泉というのは行った事は無いが、そこそこのお金がかかるはずだ。 「金銭面に関しては気にしないでくれ。第一、君にはうちで働いてもらっているんだ」 「・・・それでも、僕はやっぱり遠慮しておきます」 「・・・そうか、わかった。君がそこまで言うなら強制はしないよ」 「すみません・・・」 士郎の気持ちは、嬉しかった。 こんな自分を家族のように接してくれる高町家の人たちの思いは、とても嬉しかった。 だから、これ以上迷惑をかけたくはなかった。 いつか恩返しをする為にも、自分がここで甘えるわけにはいかない。 そう思い、キラは行く事を遠慮した。 「それじゃ、キラ君」 「はい」 「留守の間、翠屋をお願いするよ」 「・・・わかりました」 翌日、高町家+αのみんなを見送るキラ。 「キラ君、本当に一緒に行かないの?」 「うん・・・ごめんね。その代わりなのはちゃん達はゆっくりと楽しんできて」 「でも・・・」 (こっちでジュエルシードが出たら僕がどうにかするから) 念話で伝えるキラ。 (うん、わかった・・・でも無理しないでね) (何かあったらすぐに連絡下さい) ユーノも念話に加わってくる。 (うん、大丈夫。だからゆっくり楽しんできておいで) ニコッと微笑むキラ。 「いってらっしゃい」 「行って来ます!」 「キュッ」 全員が車に乗り込み、それが見えなくなるまで見送る。 「・・・よし、今日も頑張ろう」 そしてキラは高町家を後にして翠屋へと向かう。 「温泉?」 「そう。あんたも一緒にどうだい?」 「・・・いや、遠慮しておくよ。行くなら二人で行って来るといい」 「どうしてですか?」 フェイトが疑問をぶつける。 「もしこっちでジュエルシードが出現したら、みんな温泉に行ってるとすぐに対処できなくなるだろう。 この間だってうまくあの子の封印を邪魔できたからよかったものの・・・」 そういい、アスランは椅子から立ち上がる。 「だから、こっちでジュエルシードが出現したら俺が封印しておくから。二人はゆっくりしてくるといい。」 ポンとフェイトの頭に手を置き、なでなでする。 「な?」 「・・・はい」 「ありがとうございました~」 本日最後の客が帰っていく。 なんとか大きな失敗もなく、一日を過ごせた事に心をほっとさせるキラ。 「それじゃキラ君、後はお願いしていいかな?」 「あ、はい。お疲れ様でした~」 士郎から翠屋の鍵を預かっているキラは自動的に最後まで残ることになる。 とはいっても、ほとんど残務処理とかは他の店員さん達がやってくれるので、 自分がすることと言えば、清掃と戸締りと金庫の確認ぐらいである。 そして従業員が全て帰り、自分のみになる。 「これで掃除完了っと・・・後は売り上げを金庫に閉まって・・・」 コンコン。 「ん?」 不意にノックされるドア。 もうすでに閉店時間は過ぎているというのに、一体誰が・・・? おそるおそるドアに近づくと、そこに一人の人影が見えた。 とりあえずもう閉店なので、しかたないから今日はお引取り願うとしようと思い、ドアを開けた。 そしてドアを開けると、そこにいたのは一人の少年。 年は自分と同じかちょっと低いくらいの青年だろうか。 「すみません、もう閉店時間なので明日また来店して頂けないでしょうか?」 「そう、ですか・・・ああ、すみません。最後にここのケーキをもう一度食べたかったんですが・・・」 「最後?」 少年のその一言が気になって聞き返すキラ。 「ああいや、実は僕、明日にはこの国から離れることになったんです。それで次に帰ってくるのがいつかもわからないので、 離れる前にもう一度食べたかったなと思ったんですが・・・無理言ってすみませんでした」 少年の気持ちを感じ取ったキラは、「ちょっと待っててください」と言って中へと入っていく。 そして厨房の冷蔵庫の中を確認し、戻ってくる。 「ここじゃなんですから、どうぞ中へ」 突然のキラの申し出に驚く少年。 「えっ?でも・・・」 「大丈夫です、もう僕しかいないので」 「いいんですか?」 「はい」 キラはきっと高町家の人たちならこうするだろうなと思い、青年を中へと招き入れる。 アスランは夜の街を歩いていた。 その理由は、夕食を作ろうとして冷蔵庫に何かないものかと思って空けてみるとほとんど何もなかったので、 食料を買いに行く事にした。幸い、お金に関してはいくつかの手持ちはあるんで困る事はない。 歩いて5分程進むと、コンビニエンスストアが見えてくる。 「ここでいいか」 ドアの前に立つと自動でドアが開き、中へと入っていく。 即座に目に付いたのは、ポツンとおいてある最後の鮭おにぎり。 それを手に取ろうと手を伸ばしたら、 コツン。 横から出てきた見知らぬもう一つの手に当たった。 視線は自動的にその手の主の顔へと行く。見ると、自分と同じくらいの少年であった。 「あ、ごめん」 「あ、いやこっちこそ」 パッと手を離す両者。そしてその場に残る一つの鮭おにぎり。 「・・・やっぱりあんたもそれを?」 「・・・そういう君もか?」 訪れる沈黙。 気まずい空気が辺りを支配する。 「「ど、どうぞ」」 二人の声が見事にハモった。そしてさらに深まる沈黙。 すると、ウィーンと自動ドアが開き入ってくる人物。 カツカツと二人の前に立ち、おにぎりを手に取る。 「「あ」」 そしてレジへと行き、会計を済ませてスタスタと出て行った。 「「・・・・・・・・・」」 唖然としたまま二人はそこに立ち尽くしていた。 「どうぞ」 コトとテーブルの上に置かれるケーキと紅茶。 「ありがとうございます」 中へ少年を招いたキラはカウンターへと案内し、ご注文のケーキを出してくる。 「えと、この紅茶は・・・?」 頼んでいないはずの紅茶が出てきて、聞き返す青年。 「その紅茶とセットが一番人気なんですよ、あ、お代は気にしないで下さい」 「すみません・・・ありがとうございます」 カチャと紅茶の入ったティーカップを持ち、口をつける少年。 「おいしい・・・!」 「本当だったらもっとうまく淹れられたらいいんですけど・・・」 「いや、これでも十分おいしいですよ」 「そういってもらえてありがとうございます」 紅茶の淹れ方とかは一通り教えてもらってはいた。 そして少年はケーキへと手を伸ばし、小さく分けて口へと運ぶ。 「・・・やっぱり、ここのケーキはおいしい」 とても穏やかな顔でとても嬉しそうに食する少年を見て、キラはよかったと思った。 「あの、一つ聞いてもいいですか?」 「はい?」 「いつここのケーキを?」 「えと・・・つい半年ほど前だったんですけど、実は僕、記憶喪失なんです」 「え?」 「半年程前に、僕この町の公園で倒れてたらしいんです。しかもボロボロの状態で」 キラは思わず言葉に詰まった。 まるで自分がついこの間置かれていた状況と瓜二つなのだから。 「その時僕を助けてくれたのが孤児院の院長さんで、僕を拾ってくれたんです。 そして半年程お世話になって、そしてひょんなことから僕がピアノを弾くと、 「君には才能がある」といって僕を知り合いのピアノの先生の所へ留学して頂けることになったんです」 「・・・・・・」 「拾ってもらった後、怪我が治ったお祝いにと、ここに連れて来て貰ったんです。 ここのケーキがとてもおいしいんだ。といって僕にケーキを食べさせてくれたんです」 「そうだったんですか・・・」 「はい。それで、留学が明日に出発なので、最後にここのケーキをもう一度だけ食べたいと思ってきたのですが、 あなたに会えてよかったです。本当にありがとうございます」 少年はそういって深々と頭を下げる。 「あ、いや、そんな・・・」 「そういえば、あなたはここの店長さんですか?」 「あ、いや僕は違うんです。ここの店長さん達が家族で旅行に行ってて、代理で任されたんです。」 「そうだったんですか」 「はい。あの・・・ちなみに記憶の方はまだ・・・?」 「・・・はい」 少年が頷き、俯く。 「何も覚えていないんですか?」 「はっきりと覚えているのは、自分の名前だけで、後は・・・うっすらとですが、ある人の事なら」 「ある人?」 「はい」 アスランは結局食料を買い損ねてしまい、仕方なくコンビニを立ち去ろうとしたら、 先程手がぶつかった少年が話しかけてきた。 「さっきは悪かったな。俺のせいであんたのおにぎりが持ってかれちまってさ」 「気にするな。それにあれは俺のと決まっていないしな。そっちこそすまなかったな。俺のせいで」 「あ、それもそうか。・・・まぁ、お互い様ってことで。それはそうと、あんたこれからどうするんだ?」 食料を買いそびれ、また違う店を探すしかないと思っていたので、それを口にする。 「だったらさっきの侘びもかねて飲み物くらいは奢るぜ」 断る理由も特にないので、ご馳走になるアスラン。 公園のベンチに二人で腰を落ち着け、飲み物を啜っている。 「しかし、よかったのか?」 「何が?」 「コレを奢ってくれたことだ」 そういって手に握っている缶を揺らす。 「ああ、それくらい気にするな」 そういって屈託のない笑顔で返す青年。 「そうか、わかった」 せっかくの少年の好意を無駄にはできないと思い、素直に受け取っておくアスラン。 「・・・・・・似てる」 ふと少年が漏らした言葉に?な表情で見るアスラン。 「ああ、いや気にしないでくれ。俺の知り合いだと思う奴に似てるって思っただけだから」 「だと、思う?」 その部分がとても文章的におかしかったことが気になり、聞き返す。 「・・・実は俺、記憶喪失なんだ」 「えっ?」 「数ヶ月前、この街で俺ひどい怪我してた所を助けられたんだけど・・・それ以前の記憶が全然無いんだ」 「・・・・・・」 「今は孤児院に世話になってるんだけどさ、あんまし迷惑かけたくなくて・・・どっかに働こうかと思ってるんだ。 でも、俺まだ16歳だからさ、ほとんどどこも雇ってくれなくて・・・」 自分と同じ年の人間なのに、その少年の気持ちがよくわかったアスラン。 自分も同じように、誰かを護りたくてザフトに入ったから。 「・・・えらいな、君は」 自分の事を言っているわけではないのだが、素直な感想を口にした。 「んなことねーって・・・それで覚えてるのが、自分の名前と・・・友達・・・だと思う奴の事。 記憶が曖昧だからよく覚えてないんだけどさ、そいつは・・・いつも笑ってて、人から頼まれた事を断れない、断らない奴で、 誰かの為に、いつも頑張ってる奴でさ・・・俺、そいつと一緒に遊んだり、勉強したりした記憶が断片的に残っているんだ」 「・・・・・・」 少年の話を聞いて、アスランは思い出していた。 そういえば、あいつもそうだったな・・・と、今この夜空のどこかにいるはずの元親友の事を・・・。 「変だよな、でも俺、そいつの名前すら思い出せないんだぜ・・・」 「・・・いつか思い出すさ」 「えっ?」 「それは君の大事な思い出で、その人は君にとって大事な友達なんだと俺は思う。だから、消えないんだ。 断片的でも残っているなら、そこから何かを思い出す可能性はゼロじゃない」 「・・・・・・」 「だから、諦めるな」 少年はアスランの言葉を受けて、何かを考えるように目を瞑る。そして目を空けて、夜空を見上げる。 「・・・そうだな」 「すまない・・・確証もないのに、曖昧なことばかり言って」 「おいおい、そこであんたが謝ったらダメだろ~」 バシバシと笑いながらアスランの背中を叩く少年。 ちょうど飲み物を飲んでいる時に食らったので、ゴホゴホと咳き込むアスラン。 「あ、悪い、ちょい力入れすぎたか?」 「・・・気にするな。痛くはないから」 「そっか」 「真面目なんですけど、どこか抜けていて、しっかりしているようで、実は優柔不断な所もあって、でも優しい人でした」 「・・・・・・」 「僕、いつも迷惑ばかりかけていた記憶があるんです」 少年の言葉に思い出すのは、自分の親友、アスラン・ザラの事。 キラも幼少の頃はよくアスランに助けてもらったことを思い出す。 「でも僕、その人の名前も覚えてないんです・・・」 そういって俯く少年。 「でも、その人の事を覚えてるってことはその人に会えたらもしかしたら記憶が戻るかもしれませんよ?」 「・・・そうですね・・・でも、それは少し・・・怖いんです」 「怖い?」 少年の言葉に疑問を浮かべるキラ。 「記憶が無くなる前の自分がどんな人だったのか・・・どこで何をしていたのか・・・ それを思い出すと、今の僕が消えてしまうんじゃないかって・・・そう思ってしまうんです」 見ると、少年の手がかすかにだが震えていた。 記憶の無い不安。それを抱えたことのないキラには少年の痛みがわからない。だけど、 「・・・その人と一緒にいる時の君はどんな風なんですか?」 「え?・・・それは・・・・・・」 考え、記憶を探る少年。 「僕は・・・その人と・・・」 そして導き出される答え。 「笑っています・・・」 少年の瞳から自然と涙がこぼれていた。 「・・・だったら、記憶が戻っても」 「きっと、笑い会えることができると思います」 「・・・・・・そう、ですね」 ポケットからハンカチを出して涙をぬぐう少年。 見ると、少年の手の震えはいつの間にか止まっていた。 「さてと、それじゃ俺はそろそろ帰るとするわ」 少年がベンチから立ち上がり、ん~。と背筋を伸ばす。 「あんたはどうする?」 「・・・俺も今日は帰るとするよ」 食料を買う事はできなかったが、この少年と過ごせた時間は悪くなかった。 「そうかい」 「すまなかったな、それとごちそうさま」 「どういたしまして」 ヒュッと空き缶をカゴへと投げるアスラン。それは弧を描くように真っ直ぐカゴの中心へと入っていく。 「うまいな」 「偶然だ」 「・・・あんたにも、大事な友達っているのかい?」 「・・・ああ」 「だったら、大切にしろよ」 「・・・そう、だな」 今はこの世界でも敵どおしな親友。 「何だよ、歯切れが悪いな。ケンカでもしてんのか?」 「・・・まあ、そんなところだ」 「ふぅん、ま、いいんじゃないの?『ケンカするほど仲がいい』って言うし」 「・・・それとはまた少し違う気もするが」 「ケンカできるってことは、そいつと本音で、本気でぶつかれるってことだろ?お互い譲れないものもあるだろうしさ。でも」 「?」 「あんたが友達の事を大事だって思ってんなら、仲直りだって簡単だと思う」 「・・・・・・」 「仲直りするキッカケがあれば、意外と簡単だと思うぜ」 「・・・・・・」 「だから、あんたも頑張れ」 ポンと肩を叩く少年。 「あ、そうだ」 「?」 「最後に、あんたの名前、教えてくれない?」 「・・・俺はアスラン、アスラン・ザラだ」 「俺はトール、トール・ケーニヒ」 「そっか、覚えたぜアスラン。じゃ、またな」 「ああ、またな。トール」 そしてトールは明かりの無い道の向こうへと消えていった。 (・・・仲直りか・・・) アスランの心は、揺れていた。 (・・・そうだ、俺は別にキラを殺したいわけじゃない・・・) ベンチから立ち上がるアスラン。上を見上げる。 (だが、お前が俺の邪魔をするのなら・・・俺はお前を止めてみせる・・・) そして本日最後のお客の食事が済むと、お会計を済まし、キラも翠屋を後にした。 途中までの道を一緒に歩く二人。 「・・・僕、この国に必ず戻ってきます。そしたら、また翠屋に来ようと思います」 「今度はマスター達もきっと喜んでくれると思います」 「はい・・・今日は本当にありがとうございました」 深くお礼する少年。 「僕にも・・・君の記憶の中の人とよく似ている人がいるんです」 「そうなんですか?」 「はい、でも・・・今ちょっと仲違いしちゃってて・・・なんとか話をしたいと思っているんですけど・・・」 「諦めなければ、いつか必ず伝わりますよ」 「え?」 「だって、あなたがその人の事を大事な友達だと思っているのであれば、その人に伝わるまで、 何度でもぶつかり合うぐらい本気じゃないと、相手には伝わらない」 「・・・・・・」 「中途半端な気持ちじゃなくて、全力で向き合える。それが友達だと思います」 「・・・うん、そうだね。僕もそう思う」 「だから、本気でぶつかってください」 中途半端ではなく、全力で自分の気持ちをぶつける・・・。 今までの自分に足りなかったのは、アスランと本気でぶつかり合うっていう覚悟と気持ちだったのだろうか? (・・・今度は、全力でぶつかろう。僕の本気で) そして別れの時。 「あ、僕こっちなんで・・・」 「そうなんですか・・・」 「最後に」 「?」 「名前を、教えて頂けますか?」 「・・・僕の、ですか?」 「はい」 それは、この世界でキラのたった一つの、唯一の意味を持つ言葉。 「僕はキラ、キラ・ヤマトです」 そして、記憶のない少年のたった一つの、唯一覚えている記憶。 「僕はニコル、ニコル・アマルフィです」 そしてどちらからかともなく、手を握り合い、握手する。 「また、どこかで」 「お会い、できるといいですね」 そしてお互いの手を離し、 「それじゃ、さよなら」 「さよなら」 お互い振り返ることもなく、それぞれの道を歩いていく。 いつか、二人の道が交差することを、願って・・・・・・。
https://w.atwiki.jp/irosumanoss2/pages/133.html
「全力全開!!」 人物 私立聖祥大附属小学校在籍 小学3年生 声は田村ゆかり 性格 明るく優しい性格で正義感も強い 原作は魔法少女リリカルなのはだと思われがちだが実際はとらいあんぐるハート3 〜Sweet Songs Forever〜の登場人物〔ちなみに主人公は彼女の兄〕 原作設定では誕生日は3月15日 身長は129cm。体重は24kg。血液型はO型 SSにおける高町なのは 第4章から登場しそれ以降は毎回登場 戦闘にもよく参加し敵を倒すこともある 原作と比べるとやや気性難で突然語気が荒くなることも ボケをやらかすことは殆ど無く役回りはほぼ突っ込み 補足 ニコニコ上では管理局の白い悪魔と呼ばれている テラカオスに魔王の魂を植えつけられ敵になっていたことがある その際ピコ麻呂により救われ、その後魔王を体から追い出すことに成功 歳が近いためか江戸川コナンと相性がいい 中野梓は彼女のファンである イロスマゾーンの件で仮面ライダーゼロノスに恨まれている パズルゲームが好きなのでピコ麻呂のぷよぷよ禁止令が苦手 技 強力な射撃系魔法を得意する 超能力は持っていないためすべて魔法である ディバインバスター 直射砲撃魔法 エクステンションやフルバーストなどバリエーションも多い アクセルシューター 誘導制御系魔法 一度に数十発魔法玉を発射する エクセリオンバスター 大威力の砲撃魔法 かなり強い スターライトブレイカー 最大奥義 特大の力ではなつ収束砲撃魔法 スターライトブレイカーDD ライトとの連携技 ライトプリズムと同時発射で威力倍増 チェーンバインド 数少ない拘束系魔法 魔王シューベルト 化身、見た目はニコニコRPGの魔王 化身技は魔王の斧 グランドソード開放 グランドソードのエネルギーを開放し時空ごと敵を切り裂く フォームチェンジ グランドソードフォーム 魔王シューベルトを化身アームドすることで進化する グランドーソードを使うほかレイジングハートとグランドソードを合体できる 関連 フェイト・テスタロッサ 中野梓 以下白い悪魔つながり 都営5300形:交通局の白い悪魔 ノロイ 2Jレースカー エラー娘
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/3716.html
マクロスなのは 第24話『教導』←この前の話 『マクロスなのは』第25話「先遣隊」 SMSはアクティブ・ソナー作戦が行われたその日の内に、フォールド空間の座標に向けて無人戦闘機(AIF-7F『ゴースト』)部隊を派遣した。 しかしその結果は残念なものだった。 そこには土台から外れたフォールドブースターが浮いていただけだったのだ。 その事実は関係者を大いに失望させたが、ゴーストの持ち帰ったフォールドブースターは驚くべきことを記録していた。 ブースターが外れる寸前に記録したのであろう、アルト達の緊急デフォールドした座標だ。 その知らせに一番狂喜したのはルカだった。 「やった!これでランカさん達を迎えに行けますよ!」 単体でフォールド空間に取り残された場合、生存は絶望的だった。なぜならそんなことをすれば最後、三次元の物体は時空エネルギーの圧力に耐えられず機体が即座に圧壊、自爆するからだ。 しかしデフォールドしているなら話は別だ。 大気圏の離脱及び突入。そして星間航行能力のあるVF-25の生存性(サバイバビリティ)があれば大抵何とかなるはずだった。 しかしその座標はフォールド断層内のサブ・スペースと呼ばれる使わない・・・・・・いや、使ってはいけないゲート位置だった。 この空間に開いたゲートは普段使うゲートとは違って、通常空間との相対位置に必ずしも一致しない。 つまり入って10秒でデフォールドしても隣の銀河だった。という事が起こり得る。そのため救助はフォールド空間を経由せねばならなそうだった。 ―――――しかし救助の準備に取り掛かったSMSに横やりが入った。 『ここから先は我々が行おう。ご苦労』 突然の通達。差出人は新・統合軍だった。 最近風当たりの悪い新・統合軍としては、目に見える成果が欲しかったのだろう。 〝救出〟という美味しいところだけ持っていく理不尽で一方的な申し出だったが、悔しいことにSMSは民間企業であり新・統合軍は大切なスポンサーだった。 そうして今度はその座標に救援の先遣隊として統合軍のゴーストが一機送られることになった。 そのゴーストはフォールドクォーツを応用した通信機が装備されており、これを中継器として向こう側とのリンクが確立できるはずだった。 (*) 新・統合軍 ステルスクルーザー艦内 統合指揮管制所 そこでは一人のオペレーターがフォールド空間に突入したゴーストのオペレートを行っていた。 (なんてことはない。いつもの飛行をすればいいんだ) そう彼は自分に言い聞かせるもののふと手元を見ると、いつも扱うタッチパネル式のコンソールパネルの上に額から垂れたのであろう汗が一滴滴っていた。 この空調の利く艦内で汗を滴らせていたとなると、よほど緊張しているらしいことを再認識せざるを得なかった。今自分のやっていることは全銀河に名を轟かす超時空シンデレラ、ランカ・リーの救出作戦に他ならないのだ。 この作戦を見事成功させた日には、昇進させてもらえるかもしれない。それに何よりの名誉だ。そうすればフロンティアで役立たずの烙印を押されている統合軍軍人の妻や子供として肩身の狭い思いをしてるだろう家族に大手を振って歩いてもらえる。 はっきり言って何度も軍には失望させられた。 (だがフロンティアを守るのも、そこに生きる人を救うのも我らが新統合軍だ!目先の金が目当ての民間軍事プロバイダなんかに任せておけるか!) ハイスクール時代の新・統合軍のパレードを見て、この道を自信を持って進んだあの頃の自分に間違いはないはずだ。 そうでなくとも変えて見せる。そのための力は今手許にある。世界最高峰の技術の粋を結集した「ゴースト」という力が。彼は今それを何不自由なく操作できる自分に感謝した。 事実、その技量は客観的に見ても称賛に値すべきものであった。彼のゴーストはフォールド空間の磁気嵐の中を有線で航行しているが、ある時は自身がスティックを握って誘導し、またある時は巧みな判断で磁気嵐を先読みしてゴーストの自律航法装置に指示を出した。 そうして長い航路の末、目的の座標へとたどり着いた。 ちらりとのぞいたステータス表はオールグリーン。ゴーストは無傷で辿りつけたようだ。 しかし安堵のため息など吐いている暇はない。まだ彼も、そして相棒(ゴースト)も仕事を終えていないのだ。 手元のパネルからゴーストに積んだスーパーフォールドブースターを活性化。フォールドゲートが開いた。 フォールド中継器作動確認。周囲にレーダー反応・・・・・・なし。エンジンリスタート。スーパーフォールドブースター最大出力。 「まもなくデフォールドします。3、2、1」 画面いっぱいにゲートが近づいて――――― 「どうした?」 突然砂嵐になった画面に何が起こったかわからない上官が詰め寄ってきた。 何が起こったのか分からないのは彼も同じだった。予定ではゲートをそのまま突破。後に中継器を介してあちら側とコンタクトするはずだったのだ。 ゴーストのステータス表はリンク途絶を表示し、緊急ビーコンの応答もなかった。 (ウソだろ?全部うまくいってたはずだろ!?) 操作ミス・・・・・・いや、無かったはずだ。 整備不良は・・・・・・三日前オーバーホールしたのにそれはないよな。 磁気嵐にやられた・・・・・・記録を見る限りそんな様子はない。 可能性は潰れていき、ついにはなくなってしまった。つまり、何もわからないのだ。だから彼にはありのままを伝えるしかなかった。 「それが・・・・・・リンクが切れました。原因不明です」 「なに!?」 その上官はともかく状況を確認するとゴーストの回収を最優先して、ゴーストまで伸びているはずのフォールドクォーツの粒子入りのワイヤーを手繰り寄せる。 しかしその先には何もなくて・・・・・・ 彼は改めて自分が失敗したのだということを思い知らされた。 (*) その頃マクロス・クォーターのバーでは一番美味しいところを持っていかれたため、調査隊の隊員達がクサっていた。 特に悔しいのはルカだ。 「酷すぎますよ統合軍は!後少しってところで良いだけところだけ持っていって─────!」 「まぁまぁ、ナナセちゃんには私が伝えるわ。『あなたの彼がランカちゃんを見つけた』って」 シェリルがグロッキーな彼をなだめる。ハタチ前なのに周囲に合わせてお酒を頼んだ彼だが、あれから三時間。まだ一度も口を着けていなかった。 (まったく、まだ子供なんだから) 口には出さなかった。 そこにオズマ少佐が血相変えてバーに飛び込んできた。 「隊長? どうしました?」 「統合軍の先遣隊のゴーストが消息を断ったらしい」 「「え!?」」 その場の一同が唖然とした。 (*) 先のバジュラとの闘争においてあまり目立たなかったゴーストだが、そのサバイバビリティと戦闘力は世界最高峰だ。 そう簡単に落とされぬよう戦略・戦術システムと対ハッキングプログラムは毎週のように更新され、各種探知機から武装まで毎年アップデートされている。 それが消息不明となると事態は深刻だった。 即座に合同捜査という運びとなり、再びSMSが表舞台に立つことになった。 (*) フォールド空間 そこには精密な調査をするためSMSから派遣されたルカ率いる調査隊と護衛のピクシー小隊が展開を始めようとしていた。 母艦となっているのは新・統合軍のノーザンプトン級ステルスフリゲートだ。 今回ゴーストの行方不明の理由もわからず、まだ表向き新・統合軍の管轄として扱われているため船だけ回したらしい。 (僕達の命の重さはこの船一隻分ってことか) ルカは艦長席に座って指揮を取るコンピューター頼りのお飾りペーパーエリートに視線を投げると、ため息をつく。 しかし彼は容姿はともかく大人だった。すぐに (僕達だけで行かせなかったことを評価すべきか) と思いなおすと、自らが座る艦のセンサー類が統合制御監視できる部所である科学・調査ステーションのコンソールパネルを弾いた。 艦に搭載された各種長距離センサーではゴーストが入ろうとしたフォールドゲートの座標に異常は見られない。また、レーダーにも反応はないようだった。 しかしゴーストが行方不明になったことは厳然とした事実であり、宙域に吹き荒れる磁気嵐がセンサーを妨害し、敵機が隠れている可能性も否定できない。 ルカは最新の観測データをこの船の格納庫で翼を休める己が愛機『RVF-25』に転送。その席を統合軍ではない、SMSから連れてきた調査隊の一人に任せると、格納庫に向かった。 (*) ノーザンプトン級ステルスフリゲートは〝フリゲート〟の名に違わず配備数が多く、基本設計は30年以上変わっていない。しかし高速性とステルス性に長け、現在もマイナーチェンジしながら継続して量産が続けられて、各移民船団の主力護衛艦艇として活躍する優秀な艦種である。 それを証明する例としては、過去にバロータ戦役において第37次超長距離移民船団(マクロス7船団)が行なった突入作戦『オペレーション・スターゲイザー』の際、この重要な作戦に母艦『スターゲイザー』として同型艦が使用されていることなどが挙げられる。 さて、この艦はひし形の艦体構造と直線的なフォルムによってパッシブ・ステルス性を向上させている。また、フリゲートと言えど全長は252.5メートルと第二次世界大戦の大和型(全長263メートル、基準排水量64000トン)に匹敵し、兵装は粒子加速(ビーム)砲や反応弾を含めた各種ミサイルなので火力では比較にならない。 しかし運用重量約1200トン(質量)とまさに駆逐艦クラスであり、その差から生み出される内部空間はバルキリー隊などの機動部隊を運用するに十分な広さを提供していた。 SMSのピクシー小隊を率いるクラン・クラン大尉も愛機クァドラン・レアと一緒に格納庫にいた。 彼女の傍らにはバジュラとの抗争時からピクシーの二番機を務めるネネ・ローラが同じようにクアドラン内で出撃待機に入っている。 クランはその首に掛かるペンダントを愛しい物のように〝ギュッ〟とその手に握った。 そのペンダントの先には彼女の愛した人の遺品がある。 その彼が〝見えすぎる目〟の矯正のために掛けていたそれはアルトにとってのVF-25Fというように、今となっては彼女に掛かった呪い(カース)だった。 彼は無防備だった自分を守るために何のためらいもなくその身を盾にして死んだ。 愛のため殉じる。 『そんな陳腐な言葉』と鼻で笑われるかもしれない。しかし彼は自らや大切な友人達を守りきれたことに安堵して散った。 そのためクランはこのペンダントから彼の分まで〝生きる〟という呪いにも似た使命を背負っていた。 (ミシェル、お前は私が戦うことを望んでいないかもしれない。だが、私はゼントランなんだ。お前の守った人達は私が守り続けてみせる!) クランは決意を新たにしながらRVF-25に搭乗を始めたルカを見やった。 (*) 『クラン大尉、僕の『アルゲス』の探知範囲から出ないでくださいよ』 「わかっている」 クランは応えると、ノイズの激しい自機搭載のレーダーから目を離した。 彼女らは今、例のデフォールド座標に向かっている。 SMSのクァドランに搭載された各種レーダーシステムは、新・統合軍より高性能のものを装備しているが、この磁気嵐の中では役に立たなかった。 一方ルカの搭乗するRVF-25の装備するイージスパックはレーダードーム『アルゲス』に代表される強力なレーダーシステムと大容量・超高速コンピューターを搭載。その索敵能力と管制能力はルカの技量も相まって本式のレーダー特化型護衛艦一隻分に匹敵し、航空隊の〝目〟として機能する。 現在ルカはその強力なレーダーシステムとコンピューターを駆使して磁気嵐を寸分の隙なく解析、ノイズを補正し、三機の中で唯一正確なレーダー情報を入手していた。 しかしデータリンク電波も撹乱されてしまうので、ルカから届く音声通信と自身の目だけが頼りだった。 『まもなくデフォールド座標です。ローラ少尉、ワープバブルの位相範囲を最大にしてください』 『・・・・・・はい』 ルカの指示に編隊の最後尾に位置するネネのスーパーフォールドブースターが全力稼働。時空エネルギーの圧力に対抗するために展開されるワープバブル徐々に大きくなり、デフォールド座標までをバブルで包んだ。 ネネはそのまま定点となり、ルカとクランは周囲を警戒しつつ前進。デフォールド座標の調査を開始する。 『─────走査完了。付近に機影なし。フォールドゲートを開きます』 ルカの声が届き、RVF-25の主翼にくくりつけられたフォールドブースターが光を発する。 目前の空間に亀裂が入り、フォールドゲートを形成した。 クランは油断なくゲートに向かってクァドランのガトリング砲を照準するが、ゲートは我関せずとばかりにそこにあるだけだ。 『・・・・・・大丈夫みたいですね』 「ああ」 どうやら取り越し苦労だったようだ。おそらくゴーストも統合軍のバカが操作を間違えて故障させてしまったのだろう。 (これだからデブラン(ちっこいの)の作る機械は─────) と自らの搭乗するゼネラル・ギャラクシー社再設計のクァドラン・レアを棚に置いてため息を着いた。 『それじゃこのままデフォールドします。クラン大尉は先導願います』 「わかった」 彼女は応え機体を前進させようとするが、寸前で左端の方で視界を遮る〝もの〟の存在に気づいた。 胸元に入れていたペンダントが飛び出し、漂っていたようだ。 クランは危ない、危ない。とペンダントトップについた眼鏡の入った容器を掴み胸元に戻す。だがその先にあった左舷を映すディスプレイに光を捉える。 クランの手は即座に動き、ルカのRVF-25を突き飛ばした。 『うわっ!』 ルカの悲鳴と共に、さっきまでバルキリーがいた場所を5メートルほどの光弾が貫いていった。 「ルカ!今のはなんだ!?」 通信を送りながらその物体に腕部のガトリング砲をぶち込む。しかしそれらの弾幕は空しく空を切った。 『現在走査中!─────ダメだ!レーダー反応なし!目標はステルス、もしくは何らかのエネルギー体です!引き続き解析します!』 「チィ!」 クランは機体を横滑りさせて迫る黄色い光球を回避する。ルカもバトロイドに可変してガンポッドを照準、掃射するが、レーダーに映らないので普段コンピューター補正頼りの彼には荷が重い。 そうしているうちに蛇行していた光球は突然180度速度ベクトルを変えると、ルカに突入を始めた。 「おのれ!ミシェル、私に力を!」 クランはその胸に鎮座するペンダントに願掛けすると、機体の出力リミッターと『キメリコラ特殊イナーシャ・ベクトルコントロールシステム』のリミッターをオーバーライド。 機体の主機が瞬間的な200%の稼働によって悲鳴のような高周波の唸りをあげ、まるでゴーストのように設計の限界性能を引き出して加速する。 華奢な彼女の体に人間には到底耐えられない数十Gという莫大な力が働くが、メルトランディである彼女は遺伝的にハイGに耐えられる。それに"守る"と決め、そのための翼を与えられている彼女にとってそれは些末な問題にすぎなかった。 その速度そのままにルカと光球の間に割って入った。設計限界からの瞬間停止によって限界を迎えた慣性制御システムが煙をあげて吹き飛ぶが、クランの瞳はまっすぐに迫ってくる光球から離れなかった。 「ハァァァ!」 腕部にフルドライブのPPBを展開、雄叫びと共にその光球に正拳の一撃を放った。 激突した両者から発生した莫大な時空エネルギーの余波が電流として発現。クァドランの巨体を流れる。 その過電流によって機載の電子機器が次々システムダウンを起こし、沈黙していく。 しかしクァドランはいい意味でシンプルな機体だった。 その基本設計は何千何万周期もこの広い宇宙で戦い続けた『クァドラン・ロー』という機体だ。 『クァドラン・レア』はそれをゼネラル・ギャラクシー社が再設計、現代戦に対応するため多数の電子機器を装備し、武装を改装したものだ。 ゼントラーディの兵器群はプロトカルチャー設計のもので、その耐久年数は人間製のものとは比較にならない。 さる筋の調べによるとピコメートル単位の誤差すらないらしい品質の高さも挙げられるが、その設計のシンプルさが物を言っていたのだ。 その基本設計を受け継いだクァドラン・レアは元々各種電子機器などなくても操縦者さえいれば戦闘稼働が可能なほどのタフな機体だった。 『お姉様!』 遠方でワープバブルを維持するネネの悲鳴が耳を打つが、通信機はそれを最後に沈黙する。 絶縁破壊を起こした電気配線がスパークして目の前にあった前部モニターを吹き飛ばす。 腕部のガトリング砲に異常事態。それを警告するモニターがなかったが、彼女の髪の光ファイバーを利用したインターフェースによってそれを知り得たクランは緊急システムでそれをパージする。直後電子機器のスパークで弾薬に引火したそれは大爆発した。 次々機能が死んでいくクァドランの中でクランは必死に機体を操り、光球を押し留める。 おそらくVF-25やVF-27ではすでに機体は操縦者を見捨てて機能停止していただろう。 しかし各部分ごとに独立したブロック(ユニット)型という名の構造。そして正副二重(つまり四重)に確保された操縦用回線はこの状態でも操縦者を見捨てまいとなけなしの力を振り絞る。それはもはや奇跡に近い稼働だった。 その甲斐あってようやく光球は転進、左舷方向に流れていく。 「嘗めるなぁ!」 気合い一発。クランは機体前部を相手に向けると、前部を向いたまま旋回能力が死んでいた『対艦用インパクト・キャノン』をカンで照準。引き金を引いた。 元のビーム砲から対バジュラ用のMDE重量子ビーム砲に換装されたこの火器はあやまたず光球を貫き、爆散させた。 「はぁ、はぁ、はぁ・・・・・・」 荒い息づかいがヘルメットの中を反響する。 クランは機体を動かそうと操作するが、ピクリとも動かなかった。気づけば主機である背後の『キメリコラ/ゼネラル・ギャラクシー熱核コンバータFC-2055µ』も停止している。 どうやら愛機は本当におシャカになってしまったようだった。 (お疲れ様だ。良く頑張ってくれた) クランは敵を倒すという役目を果たして息絶えた愛機に告げると、非常用の爆裂ボルトに点火。コックピットハッチである前部装甲をパージすると、手を差し出すネネのクァドランに掴まってルカ共々母艦に帰還した。 (*) 「有人調査で判明したのは以下の通りです」 集めた調査隊員を前に、ルカは調査結果をスクリーンに投影しながら説明する。 調査隊を襲撃した光球は莫大な時空エネルギーの塊で、調査隊が磁気特性を持ち、レーダー波を発していたため自然と寄ってきたものであること。 レーダー波を吸収、結果アクティブ・レーダーで探知できないことからゴーストもおそらくこれに撃墜されたと思われることなどだ。 「─────しかし問題はこれだけではありません」 ルカはそう告げると、スクリーンに違う画像を展開する。 「これは・・・・・・次元断層シールド?」 調査隊の1人が驚愕に目を見開く。これは現代ではバジュラクイーンしか発生させたことがなく、次元断層によって位相空間内を外部の次元と隔てることで物理的な攻撃を完全に防ぐ現状では最強のシールドだ。 「はい。あの光球のエネルギー源を様々な調査結果をつき合わせて検討した結果〝フォールドゲートを自然発生の強力な次元断層シールド〟が塞いでいるという結論に達しました」 彼の説明によれば、光球がフォールドゲートを開いた時に初めて出現したことから関連性を調べてみると、開いたフォールドゲートの数値異常に気づいたという。 最初はサブスペースのゲートだからと気にしなかったが、どう考えてもエネルギーが莫大過ぎる。 そこでゲートを解析すると、どうやらアルト達が無理やりデフォールドした結果、次元連続体が寸断され莫大なエネルギーが流出。そこに溜まり、シールドを形成したらしい。 「またこれにより時空までも捻じ曲げられているらしく、波動的に変動して時間の進行速度が変化しているようです。計算上では現時点で、あちら側ではゆうに3カ月以上が経っているものと考えられます」 「それじゃランカはもう―――――!」 部下であるアルトはともかく、溺愛する妹の安否を第一に置いているらしいスカル小隊隊長は顔面を蒼白にして拳を握る。 20日やそこらならVF-25は問題なく稼働して星間航行できる程度の移動手段になるだろう。コールドスリープを使えば酸素も食料も何とかなる。しかしそれ以上となると機体はパイロットの整備だけでは維持できない。三カ月ともなれば宇宙はまず飛べまい。そうなると搭乗者達の生存率は飛躍的に低くなる。なぜなら全くわからない未開の場所で、人間にあった生存可能惑星が見つかる可能性は限りなくゼロに近い。 その事実は宇宙開拓者であった自分達がよく知っていた。 「いえ、オズマ隊長、その点は大丈夫です。あちら側には一定以上の生存可能惑星があるみたいなんです。時間の変動の正確な係数も接近した時収集したデータからランカさんのフォールドウェーブを解析してわかったものですし・・・・・・彼らはまだ、僕たちが迎えにくるのを待ってくれています」 自分達にとっては一週間も経っていない事柄だが、あちらにとっては三カ月以上。これだけ長いと捜索は打ち切られたと判断するはずだが、まだ生きて待っていてくれているという事実はオズマを含め調査隊隊員達を今まで以上に奮い立せた。 しかし――――― 「しかし現時点で二つの障害があります。ゲートを開くと溜まったエネルギーがフォールド空間に溢れ出して光球という形に発現、これが今回のように第一の障害となります。もっともこちらに関してはクラン大尉のようにバルキリーレベルの重量子ビームの直撃か金属性実体弾で消滅させたり反らすことができるでしょう。しかし第二の障害である断層シールドは現用の戦術反応弾頭、DE(ディメンション・イーター)弾頭を含めても突破は不可能です」 「ちょっと待て、それじゃアイツらを助けに行けないってのか!?」 希望が出てきたと思った矢先、絶望に落とされたことで調査隊の一人が感情も露に机を叩く。 「安心してくだい。手はあります」 「なん・・・・・・だと?」 ルカは不敵な笑みを浮かべるとそれを告げた。 「僕らには断層シールドを〝素〟で突破できるバジュラ達がいるじゃないですか」 調査隊員達は 「「その手があったか!」」 と喜ぶと、上げたり下げたりしてもったいぶったルカにオズマを筆頭とした者共からスリーパーホールドなどの〝手厚い歓迎〟が施された。 「・・・・・・バカどもが」 「そうですよね。これだから殿方は―――――ってお姉様!?」 「私も混ぜろぉ~!」 楽しそうに両腕を振り回しながら闘争の渦の中に突貫して行った大学の先輩で小隊長である青髪の少女にネネは (これはこれでありかも・・・・・・) と思ったそうな。 (*) 新・統合軍とバジュラクイーンを交えた協議の結果、先遣隊として個体番号1024号。通称「アイくん」、そしてブレラ中尉搭乗のVF-27『ルシファー』が選定された。 アイくんが選ばれた主な理由としては第一に赤色をした大きなバジュラ、つまり成虫バジュラであること。 そして第二に幼生の時にランカに育てられたため、個体としての知能が高く、クイーンからの誘導を切られても完全な自立行動が可能だったことなどが挙げられる。 またVF-27が行けるカラクリについては、これもまたルカの隠し球である。 実は例の断層シールドには通常兵器の単体による攻撃は通用しないが、強力な歌エネルギーのサウンドウェーブと強力な重量子ビームか、重量子反応砲の相乗効果で突破可能という結論が出ていたのだ。 そこで特定のサブスペースを探し出せる高性能センサーと重量子反応砲によって唯一あちらから能動的に帰還できるマクロス・クォーターを送り込むことを考えたのだが、ここで問題となったのは向こうとこちら側との時差であった。 最も近い時の時差でも10倍強。つまり仮にマクロス・クォーターが突入までに10秒かかってしまうと、先に突入した先端部分と後部との時差は100秒となって船体自体が引き裂かれる。 そこでSMS技術班は、フォールド空間内で外界と次元的位相を持って断絶させるフォールドのワープバブルをヒントに時差から内部空間を守る時空シールド(ディストーション・シールド)を考案した。 しかしそのための改修は数時間かかることが予想され、あちら側の時間軸で三~四カ月ほど掛かってしまう。 かと言って先遣隊であるアイくんには行った先での生活支援などできないことが多い。また、何かを随伴させようにも彼の突入方法はクォーターのようなシールドに守られた物でなく、重量子ビームで空いた穴に爪を掛けて無理やり広げ、飛び込むという荒い方法だ。 そこでその荒業時に耐え、かつアルト達の支援に対応できるであろうVF-27に白羽の矢が立ったのだった。 そして先のブリーフィングの六時間後には先遣隊の突入が真近に迫っていた。 (*) 惑星『フロンティア』の宙域ではアイくんを見送る艦艇が集っていた。 みなアイくんの所属部隊である民間軍事プロバイダ「惑星フロンティア防衛隊」の異種属混成艦隊だ。 嫌気から統合軍を飛び出した人間とゼントラーディの艦艇に加え、バジュラの空母級が実験的に一隻配備されている。規模は小さいが、半年前にさらに広域を担当する新・統合軍艦隊を突破したはぐれゼントラーディの五個艦隊を水際で一日以上足止めするという輝かしい戦歴を誇っており、その有用性を高く知らしめた現在SMS最大のライバル会社だ。 なお余談であるが、この事件は統合軍艦隊到着前にシェリルとランカを数万光年先からスーパーフォールドして輸送したSMSの介入で収束しており、新・統合軍の威厳をさらに貶め、彼らのいいとこなしの代名詞のような事件となっていた。 防衛隊主力バルキリーであるVF-171の編隊がアイくんをフォールドゲート前で待つSMSのマクロスクォーターまで送り届けると、その深緑の翼を翻しながら惑星軌道上の母艦へと戻っていく。 『帰ってこいよ!戦友!』 フォールド通信波に乗ってやってきたそのうちの一機のバルキリーパイロットの声に、最近覚えた片腕の指を一本だけ立てるという行為を返した。人間流に言うとサムズアップと言うそうで、パイロット達がやっていたのを真似てみたのだ。初めてこれをやった時にはフォールド翻訳機以外の意思疎通ができたと喜んでくれた。 それ以来険悪だった自分達と仲良くしてくれたように思う。おかげで人間とは自分の真似をされると嬉しいらしいことは〝我々全体で〟学習済みだ。 彼は今回の見送りなど破格の待遇は努力が認められて自分達、バジュラという生物もまた、人間やゼントラーディ逹にとっても戦友であり友人であると認められたからだと思っていた。 『これより未知の空間に旅立つ、アイ君に敬礼!』 アイくんにはまだ階級というものがよくわからなかったが〝この部隊のバジュラ・クイーン〟と認識する声がフォールド通信波で放たれる。 元フロンティア新・統合軍防衛艦隊司令、今の防衛隊の艦隊司令であるバックフライトの声だったそれは光を凌駕するスピードで各艦に波及して、一斉に敬礼を放たせた。もちろんバジュラ空母級の仲間達も学習を生かして敬礼の真似事をしていた。 アイくんは一度礼を言うように宙返りしてフォールドゲートへと突入していき、シェリル座乗のクォーターも続いていった。 (*) フォールド空間内サブスペース 予定座標 今も補強などの改装作業の進むクォーターのブリッジのステージでは、シェリルがステージ衣装に身を包み、たたずんでいた。 また飛行甲板には出現するだろう光球に対して射撃を行うマイクローン化したクラン大尉の搭乗するVF-25Gや多数の人型陸戦兵器(デストロイド)がずらりと配置され、壮観な光景を出現させていた。 そして───── 「全艦、準備完了」 ディスプレイに浮かび上がった合図にキャシーの声が花を添える。その知らせに艦の長たるワイルダーは凛と号令を発した。 「野郎ども!我らの姫君に必ず〝希望〟を送り届けるぞ!作戦開始!!」 ワイルダーの号令一下アイくんの体内フォールド機関を活性化。予定座標にフォールドゲートを開いた。 同時に飛行甲板の部隊が一斉に射撃を開始し、出現した光球の撹乱を開始した。 それに呼応するようにシェリルはマイクを握りしめると歌い始めた。 〈ここからは『射手座午後9時Don t be late』をBGMにすることを推奨します〉 吹き荒れる磁気嵐に対抗するため重力制御装置が全力稼働でクォーターの姿勢を制御する。 その人工重力によって重力が歪められるが、撃ち出される弾体は距離に反比例して直進していく。 そして甲板が一瞬火山みたいに光ったかと思えば、巨大な砲弾とミサイルが飛翔して行った。 VB-6『ケーニッヒ・モンスター』の32センチレールカノンから撃ち出されたDE(ディメンション・イーター)弾四発と、両腕に装備された六門の重対艦ミサイルだ。 四発の砲弾はフォールドゲートに熱いキス。真っ黒な異空間を作り出して、シールドを削った。 一方ミサイルに釣られた腹ペコ光球は反応弾頭に匹敵する爆発に呑まれ霧消した。 「第2ステージ開始!」 キャシーの指令にアイくんは背中に背負う甲羅から伸びた巨大な針にエネルギーを集束し始め、無防備になった彼に迫る光球をVF-27自慢の高機動で動き回り、展開した弾幕がその行く手を阻む。しかしそれのみではとても間に合わない。 「持ってけぇぇぇ!」 クランは叫びと共にVF-25Gの装備するSSL-9B ドラグノフ・アンチ・マテリアル・ライフルから55ミリ超高初速MDE弾を撃ち出し、流星のようにアイくんに迫った光球のことごとくを散らし、撃墜する。 また同時に砲弾とサウンドウエーブによって不安定になった次元断層シールドにアイくんの、ゼントラーディの2000メートル級戦艦をも一撃で沈める重量子ビームが放たれた。 着弾、そして大爆発。 だがそれを持ってしても穿たれた穴は1メートルに満たなかった。 しかもそれすら徐々に閉じていく。 「飛んでけぇ!」 クランの叫びが聞こえたのかアイくんは尾を振って突進。その穴に自らの針と手を突き入れ、力任せにこじ開けようとする。 シェリルは渾身の歌で、クラン達は弾幕でアイくんを援護する。 全員思いが届いたのかシールドのヒビが広がっていく。そしてガラスの割れるような音と共にシールドを無力化。VFー27がその間隙を縫ってゲートに突入。アイくんは一度こちらを返り見るようにして突入していった。 「ゲート消失!ブレラ中尉からの通信リンク待機中・・・・・・」 クォーターのブリッジにて通信・火器管制を務めるラム・ホアが耳にインカムを押し当てながら待つ。 VF-27に積んだ特殊なフォールド通信機ですぐさま通信リンクを確立、向こうの状況を送ってもらう手筈になっていたのだ。しかしその視線の先の時差修正タイムラインが一時間、ついには一日を超えても通信リンクが確立されることはなかった・・・・・・ to be continue ・・・・・・ ―――――――――― 次回予告 新人たちに与えられた久しぶりの休日 しかしそれは嵐の前触れに過ぎなかった・・・・・・ そして動き出す敵の正体とは? 次回マクロスなのは第26話「メディカル・プライム」 偉大なるベルカに、栄光あれ! ―――――――――― シレンヤ氏
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2307.html
魔法少女リリカルなのは The Elder Scrolls クロス元:オブリビオン 最終更新:08/05/13 第一話 第二話 第三話 拍手感想 TOPページへ このページの先頭へ
https://w.atwiki.jp/rakirowa/pages/29.html
キャラクター別SS追跡表 シグナム No. タイトル 作者 登場人物 022 烈火の爪(れっかのそう) ◆G/G2J7hV9Y シグナム、アナゴ 036 パラレルワールドって怖くね? ◆OGtDqHizUM スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、シグナム、アナゴ、でっていう 057 Double-Action Rascal formDouble-Action Rascal form(後編) ◆nkOrxPVn9c スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、シグナム、アナゴ、でっていう 100 MURDER×MURDER(前編)MURDER×MURDER(後編) ◆OGtDqHizUM スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、シグナム、アナゴ、衝撃のアルベルト 115 Survivor Series ◆EKhCqq9jsg シグナム、衝撃のアルベルト、アルフォンス・エルリック、スバル・ナカジマ 127 不都合なものは見えない ◆X5fSBupbmM 結城奈緒、ラッド・ルッソ、シグナム スバル・ナカジマ No. タイトル 作者 登場人物 036 パラレルワールドって怖くね? ◆OGtDqHizUM スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、シグナム、アナゴ、でっていう 057 Double-Action Rascal formDouble-Action Rascal form(後編) ◆nkOrxPVn9c スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、シグナム、アナゴ、でっていう 100 MURDER×MURDER(前編)MURDER×MURDER(後編) ◆OGtDqHizUM スバル・ナカジマ、アルフォンス・エルリック、シグナム、アナゴ、衝撃のアルベルト 115 Survivor Series ◆EKhCqq9jsg シグナム、衝撃のアルベルト、アルフォンス・エルリック、スバル・ナカジマ 128 私にできること/一緒にできること ◆X5fSBupbmM 赤木しげる(19歳)、南春香、スバル・ナカジマ、涼宮ハルヒ、園崎魅音 セフィロス No. タイトル 作者 登場人物 030 夜天の天使、飛び立つ ◆0O6axtEvXI セフィロス 040 Advent:One-Winged AngelAdvent:One-Winged Angel(後編) ◆9L.gxDzakI 柊かがみ、高町なのは(StS)、セフィロス 048 小早川ゆたかの遺言 ◆vUo//O.X1M 小早川ゆたか、セフィロス 高町なのは(StS) No. タイトル 作者 登場人物 011 めぐりあう双星 ◆DiyZPZG5M6 柊かがみ、高町なのは(StS) 040 Advent:One-Winged AngelAdvent:One-Winged Angel(後編) ◆9L.gxDzakI 柊かがみ、高町なのは(StS)、セフィロス 055 K-パックス ◆BOMB.pP2l. 柊かがみ、高町なのは、前原圭一(やる夫) 096 悲しみは絶望じゃなくて明日のマニフェスト ◆EKhCqq9jsg 柊かがみ、高町なのは、前原圭一(やる夫) 099 涙の誓い(前編)涙の誓い(後編) ◆DiyZPZG5M6 小早川ゆたか、6/氏、泉こなた、柊かがみ、高町なのは(StS)、前原圭一 フェイト・T・ハラオウン(StS) No. タイトル 作者 登場人物 027 救いを求めるその相手 ◆0O6axtEvXI フェイト・T・ハラオウン(StS)、熱血王子 067 彼女のフラグ取捨選択 ◆UcWYlNNFZY 素晴らしきフラグビルド、フェイト・T・ハラオウン 074 Welcome to this crazy Time ◆EKhCqq9jsg 赤木しげる(19歳)、南春香、素晴らしきフラグビルド、フェイト・T・ハラオウン 076 夢のかけら ◆nkOrxPVn9c 赤木しげる(19歳)、南春香、素晴らしきフラグビルド、フェイト・T・ハラオウン 082 ……も死んだし、そろそろ本気出す ◆LcLEW3UbhI 赤木しげる(19歳)、南春香、素晴らしきフラグビルド、フェイト・T・ハラオウン 098 飢え「無我夢中」の無礼講 ◆EKhCqq9jsg 赤木しげる(19歳)、南春香、フェイト・T・ハラオウン、赤木しげる(13歳)、南千秋、素晴らしきフラグビルド 103 Ego-Eyes Glazing OverEgo-Eyes Glazing Over 後編 ◆nkOrxPVn9c 武藤遊戯、熱血王子、赤木しげる(19歳)、南春香、フェイト・T・ハラオウン 遊城十代 No. タイトル 作者 登場人物 005 忘却の決闘者 ◆0O6axtEvXI 遊城十代、忘却のウッカリデス 053 毒をもって毒を制す ◆KuKioJYHKM 遊城十代、忘却のウッカリデス、小早川ゆたか 085 大都会交響楽大都会交響楽(中編)大都会交響楽(後編) ◆BOMB.pP2l. 地球破壊爆弾No.V-7、泉こなた、6/氏結城奈緒、忘却のウッカリデス、遊城十代阿部高和、ラッド・ルッソ、桂言葉、真・長門有希
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/1189.html
ここは数多ある次元世界の一つ。 その世界の中の、分割ホンコンと呼ばれる場所。そこでは現在、AS(アーム・スレイブ)という人型ロボットが戦闘を行っていた。 赤色で一つ眼のAS、「コダール」が、手足を破壊された黒いAS、「ファルケ」に拳銃を突き付けている。 が、一見優勢に見えるコダールのパイロットから余裕は感じられない。 「近付くな!パイロットを殺すぞ!?」 コダールのパイロットは前方20メートルの所にいる白いASに向けて怒鳴る。 彼が狼狽するのも無理はない。配下として共にやって来たコダールタイプのAS四機が、突如現れた一機だけの白いASによって瞬く間に叩き潰されたのだから。 「どういう事だ…“ミスリル”のラムダ・ドライバ搭載機は未完成ではなかったのか!?…貴様、一体何者なんだぁ!!」 コダールのパイロットの叫び声に、白いAS、「アーバレスト」は通信機越しに返答する。 「俺が誰なのか教えてやろうか」 そういった後、アーバレストは右拳を前に突き出し、そこに機体に搭載された特殊な力場発生装置「ラムダ・ドライバ」から発生したエネルギーを充填する。 「俺は陣代高校2年4組、出席番号41番、二学期もゴミ係の…」 言いながら、アーバレストは足を一歩踏み出し、徐徐にスピードを上げてコダールに近付く。そして遂には走り出し、右拳をコダールの盾になっていたファルケに叩き付けると同時に叫んだ。 「相良 宗介だ!!!」 アーバレストは溜めていたエネルギーを前方に向けて解放するが、その圧倒的な力の奔流はファルケを透過し、背後のコダールのみを飲み込んだ。 『全ターゲットを撃破しました。』 アーバレストのAI』アルがそう報告し、宗介は安堵の溜め息をついた。 だが、異常はこの後起こった。 「ウルズ7より各位へ、本機はこれより…」 『警告。前方の空間に異常を感知。』 「!?」 周りの仲間に報告しようとした宗介は、アルの発した警告に耳を疑う。 (敵は全て撃破した筈…!?) そして確認の為にモニターに目を向け、そこで固まった。 「何なのよ、あれ…」 「どうしたんだよ、こりゃあよ…。」 後方にいたメリッサ・マオ、ビルの上にいたクルツ・ウェーバーはそう呟き、モニターから飛込んで来る映像を凝視する。 その映像とは、空間が歪み光を発しているという、常識的な人間ならば信じられないものであった。 「ウルズ1、ウルズ7、早くそこから離れて!!何だか知らないけど計器類がとんでもない数値を出してるわ、そこにいるのは危険よ!!」 いち早く冷静に戻ったマオが宗介とファルケのパイロット、クルーゾーのコールサインを呼ぶ。 その声に我に返った宗介が機体を反転させようとするが、そこである事実に気付く。ファルケの足の損傷は、とても素早く動く事は出来ないほど酷かったのだ。 このままではこの奇妙な空間につかまってしまう。 「軍曹、俺の事はいい、早く離脱しろ!」クルーゾーが叫ぶが、宗介は『自分の力で仲間を守る』と誓ってここに戻って来たのだ。見捨てる事など出来はしない。 「くっ!」宗介はクルーゾーの所まで急いで駆け寄り、機体の腕と胴体を掴んだ。 「マオ、頼む!」叫ぶと同時に宗介はアーバレストの腰を捻り、その勢いでファルケを後方へと投げ飛ばし、それをマオ機がキャッチした。 これによってファルケは危険域から脱したが。残ったアーバレストが空間に囚われてしまった。 「ソースケ!」ビルの屋上から降りてきたクルツが近寄る。 「よせ、来るな!」宗介は拒絶するが、クルツは構わずにアーバレストを引き寄せようとする。 その時、空間の光が一層強くなり、二機を飲み込んだ。 「くぅっ…!」 「うおっ…!」 そして光は急速に弱まっていき、後には何も残らなかった。 そう、そこにいたはずの宗介、クルツの両機さえも… 「ちょっと、二人ともどこに隠れたのよ…ソースケ!クルツ!」 マオの悲痛な叫びが響くが、それもすぐにビル風の中に消えていった。 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2094.html
第九章『意思の証』 そうありたい、と私は望む そうしたい、と私は望む そうする、のはその為の手段という事で ● 夜間の山中に菫色の光が生じた。閃光は闇に沈んだブレンヒルトを、そして片手に握られたインテリジェントデバイス、光の発生源たるレークイヴェムゼンゼを照らし出す。 「ご苦労様」 『いえ、また御用の際はお申し付けを』 レークイヴェムゼンゼは返答、待機形態であるチョーカーへと変貌した。それが首に巻き付いた後、ブレンヒルトはこの闇夜において唯一の照明、天上の月を仰ぎ見る。 ……私達のGには、無かったもの…… その中で最も頻繁に見るものだ。毎晩の月を見る度に、ここが自分の世界ではないと思い知る。 「どうかしたの? ブレンヒルト」 見上げていると黒猫の声がした。こちらを窺うような声に、何でもないわ、とブレンヒルトは返そうとして、 「……あんた、どこにいるのよ?」 見つけられなかった。全身を黒の毛で覆う獣は闇夜に紛れており、杳としてその位置を見出せない。 「え? ここだよ、ここ」 「ここじゃあ解んないわよ。私はアンタと違って夜目が効かないんだから」 「人間って不便だねぇ」 漠然とした納得を黒猫は呟く。どこにいるか解らない相手との会話に、ブレンヒルトは妙な居心地の悪さを味わう。と、唐突に黒猫がはっと声をあげた。 「という事はつまり、今ならブレンヒルトに何をしても報復されないってこと!? うわっ、日頃の鬱憤を晴らす良いチャンスじゃん!?」 意気揚々とした声と跳躍音が何度も聞こえる。こちらへ飛びかかる準備をしているようだ。 「……ふぅん。貴方、そう言う事言うんだ?」 「ふふふ、今さら後悔しても無駄無駄! 今という機会を逃す手は無し、覚悟するがいい!!」 演技がかった物言いにブレンヒルトは失笑。 「――ねえ、人間って順応する生き物だって知ってる?」 「へ? あーうん、忘れたりとか現状に馴染んだりとか、そう言う感じ?」 「そうそう。……でね、人の目も猫程じゃないけど闇に慣れるものなのよ? 相応の時間があれば、それなりに見えるようになるの」 静寂。 ブレンヒルトも黒猫も押し黙り、風にそよぐ草木の音がやけに大きく感じる。 「……えーとつまりそれは、ブレンヒルトさんはもう慣れておいでで?」 「いいえ、残念ながら。でも……そうね、ちょっとずつ見える様になってきたわね」 再び静寂。幾許かの間が過ぎ、 「で? 私に何をするんだっけ?」 「御免なさい申し訳ありません二度と言いませんていうか今言った事は取り消させて下さいお願いします!!」 よろしい、とブレンヒルトは頷く。と、そんな問答を行っている内に目が闇に慣れていた。微弱な月明かりを捉え、ブレンヒルトの双眸は周囲の環境を見取る。 「何時見ても人がいないわね」 「廃村、ってやつでしょ? ま、こんな山間部じゃ住み難いよ」 ブレンヒルト達の周りにあったものは、無数の家屋だった。長期に渡って放置されたのだろう、どの家屋も泥や埃にまみれ、細部には風化も見られる。 「このGの中で滅べるなんて、贅沢の極みね」 「どうせここに住んでた人等は他のGが滅びた事なんて……ううん、ある事だって知らないよ、きっと」 知ってたら少しは反省したかもね、と続ける黒猫にブレンヒルトは、 「でもどうして管理局は、概念戦争を人々に知らせなかったのかしらね?」 「英雄気取りたかったんでしょ? 世界を混乱させるよりも自分達だけで密かにケリをつけよう、ってさ。1stーGの王様とは反対だね?」 「ええ、王は1stーGを絶対に護ろうとしていたわ。防衛用に機竜を配置して、概念核も二分して。……そこをグレアムに付け入られたのだけれど」 語るブレンヒルトは黒猫と共に廃村を歩き始めた。 「あの男によって王城は破壊され、指揮系統は麻痺。レオーネ先生はファブニールと同化し、概念核の半分を出力炉に収めて護ろうとしたけど、グレアムに奪われたデュランダルで……」 一息つく。それから自嘲するような表情で、 「レオーネ先生のファブニールが、ラルゴ翁のと同じ改型だったら話は違ったかもね」 「……改型は何が違うの?」 「改型はね、稼働用と武装用に出力炉を二つ積んでるの。レオーネ先生の旧型は一つしかなかったから、それをデュランダルで貫かれた時、死ぬしかなかった」 「それを教訓にして追加した、って事?」 ええ、とブレンヒルトは答える。 「改型は武装用出力炉に残り半分の概念核を封じているの。もしそれが破壊されても、残った稼働用出力炉で敵を潰せる」 そう答えて、ブレンヒルトと黒猫は開けた場所に出た。家屋の群を抜けた先にあるそれは校庭、暗がりで見辛いが、ブレンヒルトの行く先には体育館があり、奥には校舎もある。 「もうちょっと近寄りなさい。でないと、レークイヴェムゼンゼの効果範囲に入らないでしょう?」 「あ、うん」 体育館の正面玄関に近付いた所で立ち止まり、ブレンヒルトは黒猫を呼び寄せた。足下に来た所で踏み潰し、完全に密着した所で指先をチョーカーにあてる。 「お願い」 『畏まりました。“門”を、開きます』 そう答えてレークイヴェムゼンゼは三日月型の飾りを光らせる。直後、 ―――文字には力を与える能がある。 それは1stーG概念より成る概念空間の展開。自らの声に似たそれが響き、体育館は要塞に変貌した。 諸処に見られる窓は板で塞がれ、かと思えばあちらこちらに大きな鉄の扉が増設されている。共通するのは一様に記された、“頑丈”や“鋼鉄”という1stーGの文字だ。 「久しぶりに来るけど……見つかったりしてない?」 正面扉の前に立つ大型人種の門番と会話、問題ないよ、という返答を得てブレンヒルトは頷く。ブレンヒルトは扉に手を伸ばした。だが手を添えた所でそれは停止、扉の向こうに騒音を聞きつけたからだ。 「……ファーフナーだ」 「元気ね。和平派飛び出して転がり込んできた時は死にそうだったのに」 聞きつけたのは黒猫も同じだったようで、心底と嫌そうな顔をする。ブレンヒルトはその様子を見て、 「――彼と一緒に、貴方もここにきたのよね」 からかうような口調に黒猫が、やめてよ、と答えた。 「利害が一致しただけだよ。和平派から市街派に移りたい、っていうね」 「通常空間でも行動出来る貴方がついてなかったら、多分途中でのたれ死んでたでしょうね、彼」 全くだよ、と頬を膨らませる黒猫にブレンヒルトは笑み、扉に触れる手へ力を込めた。軋むような音を立てて扉は開き、体育館の内部をブレンヒルトに晒す。 直後、強い語気からなる宣言が響いた。 「――俺達に必要なものとは何か!?」 ● 体育館の中に数限りない異形達が、1stーGを故郷とする市街派の者達が犇めいていた。 一見すると何の区別も無く見えるが、実は市街派の方針をめぐって論争する、急進派と穏健派の二種である事をファーフナーは知っている。 「俺達に必要なのは失われた故郷を取り戻す事だろう!?」 急進派の最前線に立ち、ファーフナーは猛烈な語気を穏健派に叩き付けた。 「デュランダルを取り戻して概念核を我等の物とする。それを解放してマイナス概念に対抗した後この世界を1stーGと化せばいい!!」 対して穏健派の若者が、違う、と声を大にして応じた。 「我々に必要なのはLowーGでの権利だろう? デュランダルを取り戻した後は、それを持って和平派と合流すべきだ! その後は概念解放を管理しつつ、我々に有利となる交渉を行う!」 若者は続ける。 「我々は戦うために集まった訳じゃない。目的は飽くまで、デュランダルの奪還とLowーGでの権利を得る事だ。ファーフナー、お前の主張は単なる逆侵略だぞ!!」 「逆侵略? 違うな失地回復といえ」 若者の主張に頷いた穏健派の面々、しかしファーフナーは反論した。 「俺達の祖先が護り続けた大地を滅ぼされたのだぞ? その代わりを求めて戦うのは当然の事だ」 「LowーGがそれを認める筈が無い!」 だからこそ戦うのだ、とファーフナーは論じる。そして、それが解らないのだろうか、とも思う。 「このLowーGでは概念戦争など無かった事になっている。全ての情報は秘匿され報復活動や情報公開は全て管理局に潰される。……ならば俺達はこのGの何処にいるのだ?」 言ってファーフナーは足下を指した。 「今俺達がいるのはこのGの影の部分だぞ!? 管理局の居留地にいた時もそうだ。押し込められた狭い土地は空も川も閉じられ、森は外界との交流を断つ為の壁となっていた!!」 「だからこそ我々はこのGで自由となる権利を得るのだろう?」 「自由? 閉ざされた世界で縮こまる事がか? ……俺や一部の種族は生きていくのに1stーGの概念が必要だ。お前らの言う自由とは俺達も含んでいるのか?」 「それは……」 「解るまいな。お前はLowーGにおける人間に近い種族だ。一日の半分を水に触れていれば一般社会に紛れられる、木霊よ。――お前には俺達の痛みが解るまいよ。常に前線で戦う苦痛もな」 若者は何か言おうとした。しかしそれは言葉を為さずに喉で消え、代わってファーフナーが弁舌する。 「俺達全員がお前達の様にこのGで生活出来る訳ではない。俺達にとっての自由とは……この世界を1stーGと同様にする事でしか有り得ない!! 箱庭の優遇がお前達の言う本当の権利か!?」 その言葉に若者は歯を噛んで俯き、そこで彼の肩に手が添えられた。若者の背後、穏健派の一群から進み出た老人だ。 「良い演説だな、ファーフナー。だがお前は一つ忘れている」 何をだ、と問い返したファーフナーに老人は頷く。 「1stーGが滅びた時、お前は生まれていなかった。滅びたのはお前の世界ではない、我々の世界だ。お前は……」 「ならば俺がLowーGの人間だとでも言うつもりか?」 老人の言葉をファーフナーは遮った。 「LowーGの人間は翼を持つのか?」 ファーフナーは背の両翼を思う。 「LowーGの人間は鱗を持つのか?」 ファーフナーは巨躯を包む鱗を思う。 「LowーGの人間は角が長いのか?」 ファーフナーは側頭から伸びた角を思う。 「俺の姿を見ろ。この姿をした生き物がLowーGに存在するのか? 否! 俺は1stーGにしか存在しない半竜という種族だ!!」 人型の竜、それがファーフナーの容貌だった。 「だが俺は何も知らない。数多くの祖先を、王のいた国を、限りある大地を、月の無い夜空を、自由に生きられる天地を。……そして! 敗北の日も護るべきものも知らない!!」 故に、 「――だから俺は誇りとは何なのかを知らない!!」 思いを吐露し、抜け切った息を補給。 「だが老人共よお前達はそれを知っている。だから狭い所に押し込められてもそれに頼れる。……しかし俺達には何もない。なのに俺達はどうしようもなく1stーGの者であり、そうでありたいと思っている」 背後に立つ急進派の同意をファーフナーは感じる。 「どうすれば良い? ……どうすればそれだけの誇りが持てる!?」 老人が、そして穏健派が沈黙する。 論争転じての静寂、そこでファーフナーは自分達を迂回する人影を見た。黒猫を連れた魔女装束の少女だ。 「奥に行くのか? ラルゴ様は眠っておられるぞ」 ファーフナーの向けた声に少女は足を止めた。急進派も穏健派も注目する中で少女は振り向き、怜悧な双眸でこちらを見据える。 「……貴方の声で起きてるでしょうよ、きっと」 「は、そうであれば良いが! ……それよりも首尾はどうなのだ? ナイン」 呼びかけたその名に、少女の双眸が細められた。放たれる眼光は怒りさえ含んでいる。 「その名で呼んでいいのはラルゴ翁だけよ。翁の権利を侵害する気?」 「これは失礼した、ブレンヒルト。お前はその名を取り戻す為に戦ってると思っていたのだが」 ファーフナーは言い改め、しかし言葉を止めない。 「グレアムとやらの監視に赴き、隙あらば暗殺する、という話だったのでは? それがもう三年目になるのに来るのは定時連絡だけ。……まさか言い包められたか? 何しろお前はそのグレアムと幼い頃……」 「止めろ!!」 叫んだのはブレンヒルトではなく、足下の黒猫だった。怒気に毛を逆立て、 「ブレンヒルトはちゃんと仕事をしてる! アンタ達が話し合ってる間も、王城派の戦闘や管理局の動向を見てたんだ!! アンタ達が今も話し合ってる情報もそうして集まったものだろ!?」 断言、だがそれを終えたところで黒猫は笑みを交えた。 「頑張れって言いたいなら、もっと素直になったらどう?」 対するファーフナーもまた小さく笑み、 「最近はそれを言うと鬱になる事が多くてな。遠回りで失敬した」 ファーフナーは黒猫と笑みの口調を交わして見合う。それから視線をブレンヒルトに移し、 「早く行け長寿の娘よ。後で俺も話を聞きに行く」 そう言うとブレンヒルトは顔を背けて歩き出した。遅れて黒猫も追随し、見えなくなった所でファーフナーは穏健派を見やった。 そして議論の場を締めくくる為、最早穏健派ではなく、館内全体に声を響かせる。 「――俺が望むのは1stーGが未だ共にあるという事実だ! この世を1stーGとせずにすむ方法があるならば言ってみるがいい!!」 ● ファーフナーの声を背にブレンヒルトは地下へと続く階段を下りていった。館内奥を丸々使った大型リフト、今は隔壁を閉じた縦穴に沿って伸びる通用口だ。 「…………」 “灯火”と記された釣り鐘の照る階段は傾斜が深く、ブレンヒルトは壁に手を当てて下りていく。冷ややかで固い感触を手に、やがてブレンヒルトは階段の終着点に辿り着いた。 そこは縦穴の底辺部、大型リフトの定着も相まって広大な空間となっている。 「……ラルゴ翁」 リフトの上には巨大な鉄塊があった。否、長胴に頭部と尾を備え、四肢の先に爪を備えたそれは竜の模倣。機竜と呼ばれる兵器が、ファブニール改と称される市街派の最強武器がそこにある。 そして市街派を率いる長の意思もまた、そこにあった。 「ブレンヒルト・シルト、ここに戻りました」 『ああ、お帰り』 現れたのは一人の老人だった。禿頭の長い白ひげ、褐色の肌をしたその人物が竜の背に立っている。しかしよく見れば老人の姿が半透明で、声が老人からではなく足下の機竜より響いている事が解った。 『どうだったかい?』 「私の使い魔が詳細を」 促されたブレンヒルトは黒猫を見やる。応じて黒猫は前に出て、 「王城派は三日後に降伏するって。これで自分達の活動を終えるって、使いが伝えてきた」 そこで溜め息。 「だからファーフナー達アッパー入ってんだよねぇ。ラルゴ翁、シメちゃってよ」 「こらっ、何言ってるのよっ」 ブレンヒルトが黒猫を踏みしめ、それを見るラルゴと呼ばれた老人は苦笑した。 『まあ報告は後で聞こう。他に、何か情報は?』 問うラルゴにブレンヒルトは、ええ、と首肯した。 「管理局は全竜交渉の専用部隊を、編成中で実戦投入しています。それから明日、和平派のファーゾルトと交渉役が暫定交渉をするそうです」 『……成る程、それでファーフナーは躍起になっているのか。彼はファーゾルトの息子だからねぇ』 「父親を負け犬と呼ぶ彼ですからね。さっきも上で、稚拙な論を重ねて正義としているようで」 『稚拙なのはしょうがない。行動に理由が必要な大人を、子供が説得しようとしているんだ』 だがね、とラルゴは言葉を挟む。 『適当な理由で動く事に慣れた大人じゃあ、子供が本当に稚拙な正義を唱えた時、最後には折れるんだよ。論じゃなくて、もっと厄介なものにね』 ラルゴは腕を組み、天井の隔壁を見上げる。その向こうにいるであろうファーフナーを見るように。 『ファーゾルトの息子は、まっすぐに育ったものだねぇ』 「本人は相当苦労してたけどね。あの1stーG居留地で」 かつてその居留地にいた黒猫は、僅かに遠い目をして答える。 「あの人は上手くやってると思うよ。概念の管理を管理局に一任して、狭い居留地の安全確保を願う。皆はその程度かって言うけど……概念を管理された居留地じゃ、住人全員が人質みたいなもんだよ」 「概念空間を解除されたら、大半は半月と持たないでしょうね」 『ファーゾルト達が生活出来ているのは、彼等の持ってきた持ち物や技術という交渉材料と、後は……それこそ管理局の温情というものだろうねぇ』 「……その言葉、皆に言ってはいけませんよ」 眼を細めたブレンヒルトにラルゴは、解っておるよ、と返す。 『ワシは皆を連れてここに辿り着き、持ってきた概念核の片割で概念空間を造った。元指導者のはしくれとして、現保護者として、皆を率いる必要がある』 面倒な事だがね、とラルゴは溜め息。それからブレンヒルトを見やって、 『交換しないかね? ワシのファブニール改とお前さんのレークイヴェムゼンゼを。ワシは冥界の住人と茶ぁ飲んでる方が気楽で良い』 「無理ですよ、機竜は同化したらそのままでしょう? それにLowーGは冥界の概念が弱過ぎて、レークイヴェムゼンゼを使っても住人とは僅かな間しか話せません」 『……もし彼等としっかり言葉が交わせれば、皆の遺恨も幾らかは減るだろうに』 ラルゴは浅く眼を伏せた。 『世界の崩壊を恐れねば、我々ももっと多くを救えたかもしれぬ。――君の鳥も、惜しい事をした』 「あれは……見捨てた彼が悪いのです」 『見捨てたのは彼かもしれん。だが、救えなかったのはワシ等だよ』 そこでラルゴは眼を開けた。それから暗闇の一角に向けて一つの名を呼ぶ。 『ファーフナー』 その名にブレンヒルトと黒猫は振り返り、そこで闇に佇む半竜の姿を見た。 「……何時から!?」 険を含んだブレンヒルトの問いに、ついさっきだ、とファーフナーは返答。 「そう構えるな。俺の属性は闇、闇渡りの半竜だぞ? それが闇ならば心の届く範囲においてどこでも移動出来る」 「それで盗み聞きって訳? 趣味悪」 黒猫の言葉を、言ってろ、と鼻で笑い、ファーフナーはラルゴを見る。 「話し合いが終わりました。俺達の意見が通った上で、ラルゴ様に判断を委ねるという形で」 ファーフナーの報告に、うーむ、とラルゴは唸り、 『明日のファーゾルトの動き次第で結論、という事でどうかね? ブレンヒルトの話では……明日、事前交渉があるのだろう?』 「ええ、和平派の情報なので確かでしょう」 ブレンヒルトの答えにラルゴは頷き、だがファーフナーは不満げな表情を作った。 「……ラルゴ様、何故いつも結論を先延ばしにされる? 俺達は貴方の下に集い、引っ張られてここまで来たんですよ?」 『いや、そんな自主性の無い事を言われてもなぁ』 「責任者の勤めでしょう」 『あー、それはそうなんじゃが……すまんなぁ』 その答えにファーフナーは項垂れた。全身で脱力を表し、金のたてがみを生やした頭を掻く。 「友であられたレオーネ様、それにミゼット様をグレアムとやらに殺され、王を護る事が出来なかった。……その恨みはラルゴ翁のどこにあるのですか?」 『あるのは確かだろうが何処かまでは解らんぞ? お前さんとしては、ワシの武装用出力炉にあって欲しいんだろうが』 ラルゴは頷き、今度は揺るぎなくファーフナーを見据えた。 『失われたのはワシの友だけではない。故にワシは私意で動かん事にしとる。動くのは機が満ちた時だけさ。そして今、機は満ちつつあるよ』 続けてラルゴは問う。 『その時お前さんは、何の為に戦うよ? ファーフナー』 対するファーフナーもまたラルゴを見定め、返答を放つ。 「――我等が持っている筈のものを取り戻す為に」 その答えにラルゴは、ふむ、と応じ、 『ならば絶対に、その言葉は覚えておこうかね』 ● ファーフナーも交えた報告を終え、ブレンヒルトは体育館の外に出ていた。といっても、一人で出てきた訳ではない。 「ラルゴ翁、外に出るのは久しぶりですか?」 問いが向くのは背後に立つ巨影、ファブニール改だ。体育館裏手の壁を改造した隔壁より前半身を出し、白と緑に塗装された機竜が夜空を眺めている。 『最近は会議ばかりでねぇ。ワシ無しだと概念空間が数時間で消えてしまうから、段々厳しくなっているんだよ』 今もお前さんの見送りと言って出てきてな、とラルゴは付け加えた。そこに笑みが含まれていた事に安堵し、 「ブレンヒルト」 そこで名を呼ばれる。呼び声の主は黒猫、ブレンヒルトが見ると黒い影がこちらに向かって飛来していた。それに対してブレンヒルトは、 「えい」 落下軌道上に手刀を伸ばした。ブレンヒルトの予想は的中、五指の先に黒猫の小さな身体が突き刺さる。一撃を受けた黒猫は、げふ、と気まずい呻きを漏らし、それから妙に晴れやかな笑顔で落下した。 「……何でさ」 「不意打ちなんて良い度胸じゃない。私でも夜目に慣れるって言ったでしょう? それとも猫の脳みそじゃ覚えてられなかったのかしら?」 「ブレンヒルトの下に合流しようとしただけでしょ!? 何、ブレンヒルトとの絆ってそんなに薄弱!?」 倒れた黒猫が喚くがブレンヒルトは無視、ファブニール改の頭部を見上げた。そこに一切の変化は見られない。しかし、ブレンヒルトは確かな気配の変化を感じたからだ。 「……本意じゃありませんからね、こういうやり取り」 『いやいや、昔よりずっと良く見えるよ? 元気そうで何よりだ』 答えるラルゴの声は笑みを多分に含んだもの。やっぱり、とブレンヒルトは溜め息をつき、 「真面目になれる時間が少ないだけです。ラルゴ翁はその逆なのでは?」 『そうさねぇ』 答えは曖昧な返事。だがラルゴはファブニール改の頭部を動かし、こちらを見た。 『――ブレンヒルト。君はこれから“行く”のかな? それとも……“帰る”のかな?』 「――――――――――」 思わず、息を飲んだ。 「ラルゴ翁……、貴方は、私が1stーGを忘れたと?」 『そうは言っていないよ。ただ君は、今の市街派の状況をよく思っていないようだからねぇ』 「……長寿族の性です。ああいう論争を嫌うのは」 だろうねぇ、とラルゴは一言。 『誰か、君と同じ長寿の誰かが、ずっと共にいるのが一番良いんだろうがねぇ。君から見れば誰も彼もが、私ですらも生き急いでいるようにしか見えないだろう』 「……年寄り臭いよ、ラルゴ翁」 「こらっ!」 仰向けでファブニール改を見ていた黒猫が一言、ブレンヒルトは注意の踏みつけを放った。 『は、そうなんだろうねぇ。――皆も気付いておるだろうが、ワシももう長くは持たん。機械としての寿命ではなく、ワシ自身の寿命が尽きようとしておる』 「………1stーGの機竜が持つ、欠点ですか」 『否、欠陥と言って良いだろうねぇ』 ラルゴは自身に架せられた致死の宿命を語る。 『かつて5thーGの機竜を元にどうにか建造したこの機竜。搭乗者は同化して操る訳だが……この時の拒絶反応が強過ぎる。それこそ、大半の者がそこで死んでしまう程に』 ブレンヒルトは思う。幼い頃にグレアムと出会ったあの機竜の暴走を。 『よしんばそれを抜けても、もう二度と降りる事は出来ない。そして……いつかは有機体である搭乗者と無機体である機竜の誤差が大きくなり、自壊する』 「……………っ」 語られるブレンヒルトは沈黙。そこまで言って、ラルゴも会話を仕切り直した。 『…そろそろ戻らなくて良いのかい? 来た時は何やら急いでいたようだが』 「そ、そうだよ!」 反応したのは黒猫だった。 「ほら、小鳥! ブレンヒルト、胸薄いからって忘れちゃあたたたたた待った待った踏み込んだら中身が!?」 ブレンヒルトは黒猫を再度踏みにじり、しているとラルゴから疑問の声があがった。 『小鳥?』 「……ええ、落ちていた小鳥を、性懲りも無く」 答えたブレンヒルトにラルゴは、ほほう、と喜色を交えた。 『……それで良いのだろうよ、ブレンヒルト。いや、ナインと呼ぼうかね』 「その呼び名は、とうに捨てました」 『だが、ワシにとってはそれがお前さんの名だ。かつてミゼットに拾われ、レオーネの研究所に住み着いた少女よ。あの頃は、グレアムも含めた四人で……』 「お止めください」 言い続けようとしたラルゴを、しかしブレンヒルトは遮った。 「――お互いに知る人の名を告げるのは、独り言よりも酷いものですよ」 ● ファブニール改の視覚素子が、夜空に飛び立ったブレンヒルト達を捉えていた。 『……さて』 少女達が無事に帰ったのを確認し、ラルゴは視覚素子を別の場所に集中させる。向けられた先は周囲に広がる森林、その一角だ。 『次は貴様等と話すとしようかね。やや不本意ではあるが』 ラルゴはファブニール改の音量を上げ、林間にも声を届ける。と、木々の闇から三つの人影が進み出た。 先頭は褐色の肌をした巨躯の初老。ターバンと眼帯で頭部を飾る中東風の男だ。続くのは青年と少女、闇にも映える緑と金の長髪をした二人組。青年は白のスーツ、少女は黒い修道服を着ている。 『また前触れも無く現れたものだね。…情報屋を気取る、聖王教会よ』 ラルゴは憎々しく呟き、だが三人組が近付いてきた所で一つの旋律を聞いた。それは金髪の少女が囁く一つの歌だ。 Silent night Holy night/静かな夜よ 清し夜よ All s asleep, one sole light,/全てが澄み 安らかなる中 Just the faithful and holy pair,/誠実なる二人の聖者が Lovely boy-child with curly hair,/巻き髪を頂く美しき男の子を見守る Sleep in heavenly peace/眠り給う ゆめ安く Sleep in heavenly peace/眠り給う ゆめ安く――― ラルゴはそれの歌を知っている。 『昔、一人になるとブレンヒルトがよく口ずさんでいた歌だね。LowーGの歌で、確か題名は……』 「清しこの夜、だよ。その子の歌も良かったんだろうけど……姉の歌声も中々だろう?」 言いかけた言葉は青年に奪われる。端整な顔に薄い笑みを浮かべた男は、口を挟んじゃいけません、という少女に注意された。その様子を見てからラルゴは初老を見据え、 『その二人は何者だ、ハジよ。何故連れてきた?』 「わしの養子みたいなものだよ、ラルゴ。男の方がヴェロッサ、女の方がカリムだ。どうだい、見目麗しいだろう? だが気をつけたまえ、これでも一騎当千の魔人だ」 二人にもそろそろ仕事を覚えてもらおうと思ってね、とハジは二人の若者を紹介、言い終えると共に二人は会釈する。その様子に、うんうん、とハジは頷き、 「今夜も一つ、貴殿等の為に情報を持ってきたぞ」 『恩着せがましいな。そしてまた言うのか? 自分達の下に入れ、と』 「下、とは心外だ。うん、本当に心外だ。対等の仲間として、全竜交渉を停めようと言うのだ。我等の目的は同じ筈だが、違うかね? どうだろうかね、ん?」 確かに、とも思うがラルゴは同意しない。 『前にも言った通りだ。我々は、自分の問題は自分で解決する。素性も知れぬ者と共闘する気はないね』 「同意してくれるならば、素性も目的も話すのだがね」 『それを信じられるかどうかは、その嘘くさい笑みに訊いてみるんだね。……駄目なもんは駄目さ』 にべもない否定、それを受けてハジは口元を手で覆う。そして、 「――成る程」 呟きが終えると同時、ファブニール改に搭載された機銃が銃弾を吐いた。連発される弾丸は地に穴を空け、背後の樹木を幾らか砕き、濃厚な粉塵を噴かせる。 ……恐ろしい話だね…… ハジがいい終えた瞬間、笑みも絶えた。その時感じた気配がラルゴに威嚇射撃を決行させた。といっても、当たっても構わない相手だったので幾らかは当たったかもしれないが。そうして粉塵が晴れ、 『……何?』 そこで見えたものは、ハジの前に立つカリムと名乗る少女だった。彼女は剣型のデバイスを構えており、刀身は歪んで薄く煙を昇らせ、そして足下には細々とした鉄塊が散っている。 ……まさか、弾丸を迎撃したのか!? 刀身の歪みや煙はその代償か。だとすれば、あの少女はどれ程の反射速度を持つというのだろう。威嚇射撃とはいえ、当たろうとしていた弾丸全てを防ぐ等、 ……それこそ、予言じみているねぇ…… 『成る程、一騎当千か』 ハジの紹介は間違っていなかったという事か、とラルゴはごちる。 「もう……義父さん、あんまり挑発しないで下さい! 防ぎ切れなかったらどうするんですか!?」 「はっはっは、わしは娘の腕を疑ったりはしないという事だよ。それとも自信が無かったのかね? ん?」 「じ、自信の有る無しじゃなくてぇ……っ!」 一息の後に憤慨するカリム、それを笑っていなすハジはファブニール改を見やり、 「まあいいだろう、今日は特別サービスだ。本題の前に我々の目的を教えようじゃないか、うん」 『全竜交渉の阻止。その為の、各G残党を集めた反乱軍の組織化か? 見た所ハジ、お前は9th―Gの者だろう? 後ろの二人はLowーGの者に見えるが……』 ラルゴの推測、しかしハジは、いやいやいやいや、と両手を上げて首を振る。 「惜しいが……違う、違うんだな。我々の目的は――全G概念の消滅だ」 『……何!?』 ハジの告白にラルゴは驚愕を得た。 「ラルゴ、我ら聖王教会は、現状我々が保つ以上の概念を消滅させる事を望んでいるのさ」 『何故だ!? それは自身の故郷をも捨てるという事だぞ!』 あるのさ、とハジは答える。 「そうする理由も意味も価値も、我々は持っているという事さ。うん、持っているんだ」 ハジは独白するように解答。言い終えて熱が引いたのか、語気の調子を整え、 「明日の朝、西の管理局からデュランダルが奥多摩の管理局に輸送される。輸送機が通過するのは、丁度この辺りだろうな」 『……何故それを教える? 我々は1stーGの概念を取り戻すが、貴様等の様に消滅を望まぬ。我々は敵になるぞ』 「解っている、うん、解っているとも。だからこれはサービス、精一杯のサ―――ヴィスだ」 忍び笑いする様にハジは言う。 「今の所は貴殿等がどうあろうとも構わない。構うのは、管理局に概念がある事だけだからね。もし貴殿等がデュランダルを取り戻したならば、その時に交渉しようじゃないか。うん」 『何を、交渉すると?』 「LowーGを視野に入れず、まずは真実を伝えて要求するよ。このLowーGを本当に本当のものとする為に」 『……本当に本当のもの?』 そうとも、と言ってハジは腕を掲げ、指を鳴らした。それが撤退の合図だったのか、カリムはハジの背後に戻り、またハジ達も出てきた林間の闇に戻っていく。 「お別れだラルゴ。次に会う時は……うん。お互いの立ち場は変わっているだろうね」 『待て、答えろハジ! それはどういう意味だ!?』 制止を呼びかけるラルゴ、しかしその頃には、ハジ達は林間の闇に沈んでいた。ただ、声だけが返される。 「簡単な事だよ。私達の全てを受け継ぐべき者に、真の意味で、全てを受け継がせよういうだけだ!!」 ―CHARACTER― NEME:ラルゴ・キール CLASS:市街派の長 FEITH:機竜を駆る者 戻る 目次へ 次へ
https://w.atwiki.jp/girlwithlolipop/pages/138.html
高町なのは 【出典】 魔法少女リリカルなのは 【マスターとしての願い】 願いと呼べるものはあるが、他人を殺してまで叶えるという願いはない。 【weapon】 『天のレイジングハート』 「風は空に、星は天に。輝く光はこの腕に――不屈の心はこの胸に」 インテリジェント・デバイス。 魔法の行使を補助する、発動の手助けとなる処理装置、状況判断を行える人工知能も有している。 意志を持つ為、その場の状況判断をして魔法を自動起動させたり、主の性質によって自らを調整したりする。 待機状態における赤い宝石型のスタンバイモード、基本形態である杖型のデバイスフォーム 、 砲撃魔法に特化した羽を広げたようなフォルムのシューティングモード、 ある一つの魔法に魔力を向けるシーリングフォームがある。 【能力・技能】 『魔導師』 魔導師として高い適正を持ち、一桁の年齢でありながら上位階級であるAAAクラスに匹敵する才能を持つ。 持って生まれた莫大な魔力と瞬間出力を軸に、 生半可な攻撃ではびくともしない防御力と、 圧倒的な火力を持つ一撃必殺の『砲撃魔導師』という戦闘スタイルを、レイジングハートと作り上げた。 そのためか、バリア出力・砲撃射程・魔力放出は本作登場の全キャラクター中トップクラス。 手数で押すタイプではなく、相手の攻撃を受けきった上での一撃必殺タイプのバトルスタイルである。 魔法において天賦の才に恵まれた、いわゆる天才児である。 【人物背景】 9歳。 海鳴市に、両親と兄、姉とともに暮らしている。 3人兄妹の末っ子で、姉とは8歳、兄とは10歳離れている。 私立聖祥大学付属小学校に通う、ごく普通の小学3年生。 この世界ではごくまれという魔力を秘めている。 しかし、異世界の少年ユーノと出会うという偶然がなければ、それに目覚めることはなかった。 性格は穏やかで誰にでも好かれる明るい少女。 ただ、嫌われたり、迷惑をかけないように、そういう少女を演じていた、という部分がある。 父母/兄姉は仲が良く、なのはにも温かいが、本人は若干孤独感を感じることもあるようだ。 幼い頃に父が事故で入院、母は喫茶店で忙しく、兄姉は看病と家業の手伝いで、彼女は家で一人ぼっちのことが多く、人格形成に影響したらしい。 また本人はあまり自覚が無いが「正義」の心にとても篤い。 一度自分で決めたことは、何が何でもやり通すという意志の強さを持つ。 逆に言えば、他人に言われたことでも自分が納得しない限りは聞き入れようとしない。 言わば、かなりの頑固者である。 また、何かを悩み始めると一人で抱え込んでしまい、他人には一切相談せずに自分一人で解決しようとする傾向がある。 一期9話後からの参戦。 【方針】 帰還する。
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/559.html
「…あなた、は?」 私の名前はOVERS・SYSTEM 七つの世界でただひとつ 夢を見るプログラム 「ここは、どこ?」 これよりあなたの舞踏の場となる世界へ通じる 一歩前の空白に位置します 「舞踏、なんのこと?」 退場を余儀なくされた戦士達に代わり 私とMAKIは 新たなる絢爛舞踏を必要としました 「…つまり?」 これよりあなたが送り込まれるのは、2252年の火星 汎銀河大戦の終結により大不況に陥った同惑星の人的被害を可能な限り減らし 全宇宙に百年の平和をもたらすことが あなたに求められる役目です 「そんなこと言われても…」 貧困から宗主国である地球への反感が強まり独立運動が激化 それに対する弾圧は強まり続け 宇宙全体に政情不安をもたらしています まずは火星の独立を目標に行動してください 「いや、だから…」 私の名前はOVERS・SYSTEM 七つの世界でただひとつ 夢を見るプログラム 「話をっ、聞いてってばぁーっ」 こうして機動六課は、火星独立戦線唯一の戦闘潜水艦『夜明けの船』のクルーにされた。 全宇宙に百年の平和をもたらすその日まで、ミッドチルダには帰れない… ◆ ◆ ◆ 2253年 2月10日 「…やりきれないわぁ」 『夜明けの船』艦長、八神はやてはデータブックからニュースを見、一人落胆していた。 今日もまた、見慣れた字面が火星ニュースの記事に踊っているのだ。 『都市船イシディスで780万人死亡 革命派による虐殺か』 火星解放戦線最高指導者ヤガミ・アリアンの忠告に背き、物流操作のための海賊行為を良しとせず、 わがもの顔でのし歩き貧民達を十万単位で虐殺して回る地球軍とその同盟戦力を叩いて叩いて叩きまくり、 TV局を制圧してはアジテーション演説をくり返し、 そしてついに選挙での火星解放戦線勝利にこぎつけ、火星の独立を果たさせてみせたはやてであったが、 2253年に入り、一度は回復しかかっていた火星経済に致命的打撃がふりかかったのだ。 木星水資源公社『シスターズ』の台頭である。 火星は、全土を覆い尽くすその豊富な水資源を水素燃料に加工、その対外輸出が基幹産業となっていたが、 それよりもはるかに低重力下から水資源の打ち上げが可能である木星には、コストにおいて太刀打ちできなかった。 結果、火星の水打ち上げ事業は、生産が軌道に乗った木星に駆逐されつつある。 売れなければ儲けはない、儲けがなければ、社員に給料は払えない…水資源系企業の首切り多発。 失業者増大。 喰うにも困る人々は犯罪を起こし、それすらもできぬ人々は餓死。 それが現体制への非難につながっていくのは当然で… それを内乱分子とみなして弾圧、虐殺しているのは、他ならぬ革命派…八神はやてが全力でバックアップした、火星解放戦線。 一体、なんのために戦ってきたのか? 十五億人いた火星人口は、たったの七ヶ月ちょっとで、八億前後にまで落ち込んでしまった。 火星経済の回復、プラス、独立による貿易の自由獲得の効果で、誰も死ぬ必要のない状況に持ってこられるはずだったのに。 変革すべきは水資源頼りの火星の経済構造そのものであったと今頃になってわかったところで、死んだ七億人は戻って来ない。 そしてこれからも死ぬだろう。 虐殺と餓死が、ニュースの紙面でワルツを踊る様が目に見えるようだった。 「アリアンが言うてたんは、これのことだったんやな」 ため息ひとつ、データブックを閉じて艦橋を離れる。 水測長アルトと、航海長グリフィスは、相変わらず忙しくコンソールをいじり回していた。 そのすぐそばで、飛行長席についていたリィンが、ぽてりと地面に落下する。 艦橋 で リ ィ ン が 倒 れ ま し た 流れる艦内放送。 床を滑走している多数の作業機械『BALLS』が、ただちにリィンを運び出していく。 八神はやては顔をしかめた。 またかいな、と。 飛行長というのは、それほどの激務なのだろうか? なのは達、飛行隊の管制になら丁度よかろうと、リィンをつけたのは間違いだったかもしれない。 エレベーターホールに出てきたところで、副長のティアナが声をかけてきた。 「…ちょっと、いい?」 「バカヅキやな」 余勢の有り余っている副長に、はやては応える。 もっとも、地球その他の大艦隊に連日連戦連勝を収め続ける『夜明けの船』に、 余勢のない人間などすでに一人も居はしなかったが。 ちなみに、タメ口は禁止していない。 ここにいる間は、元の世界の地位に意味などないのだ。 ヤガミ・アリアンが言うには、これも『夜明けの船』の流儀らしい。 「疲れた顔してるわね…」 「…なんのことや? わたし、元気やて」 「…………」 口ごもったティアナは、そのままはやての前を辞した。 どうも、心配をかけてしまっているらしい。 だが、艦の頭が弱さを見せるのはいけない。 ここはひとつ、食事でもしてきて精をつけよう。 そう思い、エレベーターで下甲板に出てきたところ。 (…なんや?) そろって、エレベーターに乗り込む二人と出くわした。 あれは、なのはと、ユーノ。 なのはは飛行隊に所属し、人形、ことRB(ラウンド・バックラー)『希望号』のパイロットとして巨大な戦績を上げている。 撃墜スコアは120を数えるのに、敵にすら死者を一人も出していないという、別の意味のおそろしさも兼ね備えながら。 一方、ユーノは看護士である。 『夜明けの船』艦内の医療部門を統括する軍医長、シャマルの片腕として、彼もまたかいがいしく働き続けている。 機動六課がまきこまれた中に、どうして彼だけいるのか、かなり疑問ではあったが…今となっては、気にしない。 二人とも、まだ仕事時間中だが、こんな時間に一体、何を? 気になったはやては、迷わず後を追いかけた。 行き着く先は、士官個室201…なのはの個室。 気づかれぬようドアを開け、壁を背に、奥の様子をうかがい、音を聞く。 正直、この時点で、何が起こっているのか、想像はついていたが。 「じゃあ、最初は首ね」 「こう、かな…」 「ん…いい感じ。 次は、肩…」 ベッドの上に寝転がったなのはが、 ユーノに身体をまかせて気持ちよさそうにしている。 ときに強く、ときにリズミカルな指づかいを感じとるように、 ふぅ…とか、はぁ…とか、吐息を漏らしているのである。 …婉曲な表現はよそう。 簡潔に言うと、マッサージだった。 れっきとした医療行為だ。 飛行隊は出撃にそなえて四六時中、訓練し倒しであるから、 身体がガチガチに凝ってしまうのは当然ではある。 しかし、にしても。 (ユーノ君…手つき、やらしーっちゅーねん!) 無意識に右手が空中にツッコミを飛ばしていた。 そういえば思い出した。 以前、フェイトがしてきた話のことを。 いわく。 『二日前、個室でなのはの身体をいやらしく揉んだ。 そのときは、ひどく乱れた気持ちになった』 …ぶっちゃけ、死ぬほど反応に困ったのは言うまでもないだろう。 『あれはよかったなぁ』 などとのたまって思い出に浸っているのを適当に流して大急ぎで退散したが。 「気持ちいい…じゃ、お尻も」 「え、お尻って…こ、こう?」 「ちょ、ちょっと、ほんとに触らないでよ、えっち~」 見ていてゲンナリな光景である。 いや、最初から出歯亀しなければよかったのだが。 いっそのこと、ふたり照れてお見合い状態になっていたり、 寄り添いあってキスをしていたりであれば、ほほえましい気持ちで見ていられたのだろうが… マッサージなんかをさせておいて本人に『その気』がまったくないのが、なのはのおそろしさだと、はやては直感していた。 恥じらいを顔いっぱいに浮かべているユーノが、ベッドから立ったなのはを呼び止めて、 「なのは…」 「なぁに?」 「その……寝ない?」 「嫌…」 …見事な一蹴だった。 ユーノの大人技能は多分、この先ずっと、10のまま。 がっかりしているのを放って、部屋の外に出てきたなのはは、 急いで脱出していたはやてを目敏く見つけて、言った。 「お願いしたいことが、あるんだけど…」 「なんや? 言うてみ」 「マッサージ、してほしいんだ。 身体があちこち、きしんじゃって…」 はやては、色々と理由をつけて、断った。 次回、「戦慄! キャロの大人技能を上げた奴は誰だ?」に、続かない。 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ
https://w.atwiki.jp/nanohass/pages/2073.html
リリカルブレイブサーガ 恋する乙女は一億ギガトン編 魔法少女シャラララ シャランラ レジェンドラへとたどり着き、新たな冒険を始めたタクヤ達。といってもそれまでと違い明確な 目的地もなく、とりあえず地球に帰還。秘境の遺跡を回ったなりしながら、 未だに騙されたことに気づかず、ウルトラスーパーデラックスレジェンドラなんてものがあると思って 追っかけてくるワルザック共和帝国皇帝トレジャー・ワルザック一味との追いかけっこを興じていたのだが…… 「はあ……」 勇者にして現在はサメ型の宇宙戦艦形態のキャプテンシャーク。 その上で外の空気を吸いながらため息をついている青年がいた。 彼の名はワルター・ワルザック。ワルザック共和帝国第一王子にしてキャプテンシャークの主である。 「父上もいい加減、お子達の嘘に気づかんものか……」 騙されて追っかけてきている皇帝は彼の父親だ。流石にこれだけ経っても気づかないとなると情けなくなってくる。 ましてや自分は周囲からはこの親ありてこの子ありとも思われている。 彼がバカやりすぎると自分の品位まで損なわれてしまうのだ。何より…… 「襲撃するのもいい加減にして欲しいものだ……」 襲撃数はもはや数えるのもめんどくさい数に達していた。 しかも、国王だけあって権力に物を言わせて一回の物量は途方もなく襲撃の周期も 自分達がタクヤ達と敵対してきたと比べて段違いに短い。 いい年して大人気ないというかなんというか…… 「はあ……もううんざりだ~~~!!!」 たまったものを吐き出すようにワルターは叫んだ。だが、 「わ、ワルター様……」 ギギギ……と声のした方を振り向いた。声の下方向には涙目になった少女がいた。 「しゃ、シャランラ!?」 シャランラ・シースルー。ワルザック共和帝国有力貴族の令嬢にしてワルターの婚約者。 最近はまんざらでもないのだが、 あるパーティ会場でズボンがずり落ちるたびに元の位置に直すもすぐ下がってしまいまた上げるという行為を 繰り返しているおっさんを見てしまい大笑いしているところを見られて惚れられて以来付きまとわれ 未だに苦手意識の抜けない少女である。 「ワルター様……私のこと、もううんざりですのね……」 後ろに下がるシャランラ。だが、ここは空の上。足を踏み外したらまずい。 なんか前にもこんなことなかったかとデジャブを感じつつも急いで誤解を解こうとする。 「い、いやな、シャランラ……そうじゃなくてだな」 「あなたと私は……トホホのホ……」 だが、ワルターが誤解を解く前に彼女は身を投げるようにキャプテンシャークの上から足を踏み外した。 急いで下を覗き込む。だが、覗き込んですぐパラシュートが開くのが目に入った。 一安心したワルターはその場にへたり込んだ。 そして、 「やれやれ……若もシャランラ様も喧嘩とは仲がよろしいようで……」 「だね」 「いや、あれは悪太の甲斐性のなさを問題にすべきじゃねぇか?」 「ふむ……」 「一理ありますね」 「妻子持ちとしてドランはどうよ?その辺」 『コメントは控えさせていただきます。主達』 タクヤ達は思いっきりその様子をモニターから覗き見していた。 一方、シャランラだが 「やっぱり、ここは、仕方ありませんわね…… こうなったら今度こそ魔法少女になってワルター様をメロメロに……」 良からぬことを企んでいた。その後、しばらくタクヤ達はシャランラの姿を見ることはなかった。 そして、そんなことがあってからしばらく…… 日本の海鳴市では高町なのはという少女が魔法少女となりロストロギア ジュエルシードを回収すべく 奮戦していたのだが…… 暴走の止まったジュエルシードを封印しようとするなのは。 だが、それは突如飛んできた光弾により阻まれる。 「え!?」 「攻撃!?僕達以外に魔導師が!?」 周囲を見回すなのはとユーノ。そして、2人が目にしたのは 「残念ですがそれはあなた達には渡せませんわ」 「あ、あなたは?」 「何者!?」 「私は人呼んで……魔法少女シャランラ~~!!」 手にはピコピコハンマー、腰にはバスケットを下げ、いかにも魔法少女という格好をしたシャランラだった。 どういった経緯かは不明だがシャランラはマジモンの魔法少女になってしまったらしい。 「ワルター様との恋を成就するため、それは私がいただきますわ!」 そういうとシャランラはバスケットにかけてあった布を取り払う。 バスケットの中から現れたのは砲門のついたニンジンのような物体。 なのは達は知らないがそれはシャランラが操縦していたロボット、ウサリンMK-Ⅱに装備されていた キャロビットをそのまま小さくしたものだった。それが射出され射出されたキャロビットから砲撃が浴びせられる。 バリアをはり防御するなのはだが砲撃は思いのほか威力が高くバリア越しでもかなりのダメージを食らってしまう。 「埒があきませんわね。なら、これならどうかしら?」 シャランラが手を挙げる。と、なのはの耳にベチャっという音が聞こえた。 何事かと見ようとするがそこで四肢の自由がきかないのに気づく。 と、ユーノが声をあげる。 「バインド!?」 首だけ動かし下半身を見てみると何かべっとりとついているのが目に入った。 「……チェリーパイ?」 体にチェリーパイがついていた。チェリーパイがべったりとついたところから体の自由がきかない。 異様な光景に唖然とするなのは。だが、すぐに正気に戻るとユーノがこれをバインドといったことから 魔法によるものであると思い強引に外そうと試みる。が、全然取れない。 と、シャランラが接近しなのはをピコハンでめった殴りする。 痛みこそこそピコハンゆえないが叩かれるたびに魔力が抜けていく。と、 「そんなほとんど魔力を感じないのに!?こんなことって!?」 ユーノが声をあげる。彼の口にしたことが事実ならそれは異常な事態だ。 と、シャランラが口を開く。 「教えてあげるわ!それは、愛の力よ!」 そう叫びながら今度はユーノにもピコハンを振りかぶる。今度は物理ダメージがあった。 ぶっ飛んで星になるユーノ。なのはも魔力不足で気絶するまで叩かれ ジュエルシードはシャランラに回収されてしまった。 この後、ジュエルシード争奪戦は管理局をバックにつけたなのは、シャランラ、 それに謎の少女フェイト・テスタロッサによる三つ巴の様相を呈することになる。 正史と違って最後の6つが何故かタクヤ達を巻き込んで勇者ロボや それを追っかけていたトレジャーの戦艦マーチャンダイジングに取り付くという事態になったが ウサリンMK-Ⅱに乗ったシャランラがこれを撃破し回収。 正気に戻ったワルターの説得によりシャランラの回収したジュエルシードは管理局の手に収まることになる。 フェイトの側もいろいろあったが管理局預かりの身となり事件は収束したのだった。 A s編 リインフォースと分離した闇の書の防衛プログラム。 それの張るバリアを破ろうとヴィータがグラーフアイゼンを振りかぶる。 「轟天爆砕!ギガントシュラー……」 そしてそれを振り下ろそうとして 「シャラ!」 「グフゥ!?」 「ヴィータ!?」 シャランラに当身されて中断させられた。 「シャ、シャランラさん、何を!?」 驚愕しながらもシャランラに何が目的かを尋ねるなのは。 だが、それに答えずシャランラはヴィータの手からグラーフアイゼンを奪い 「借りますわ~~~~~~!!!」 グラーフアイゼンへと力を注いだ。 ただでさえ巨大化していたグラーフアイゼンがさらに巨大化する。 さらにグラーフアイゼンとシャランラの姿が金色に染まっていく。 そしてシャランラはそれを振り下ろす。 「一昨日きやがれですわ~~!!光になれ~~ですわ~~!!!」 次の瞬間、防衛プログラムはその言葉の通り光になった。 唖然とした様子でエイミィが状況を告げる。 「ぼ、防衛プログラム……反応消失。……再生反応……あ、ありません」 「私とワルター様の愛の力の前に倒せぬ敵などありませんわ♪シャラララ~」 『んなアホな~~~~~!?』 その場にいた人間達の理不尽への叫びが寒空に響いた。 なお、 「なんでぇ~、あっさり終わっちまったよ」 「せっかくスタンバってたのにね」 「張り合いねぇな」 「同感です」 「まったくだ」 「ですな」 (恥ずかしい……) ちょっと離れたところで隙あらば乱入しようとしていたタクヤ達(トレジャー含む)は一名を除いて暇そうだった。 「せっかく、ミラクルギャラクティカバスター、スタンバってたのに~」(バリバリ(スナック菓子食ってる)) 「せっかく、シュバンシュタイン(プラネットバスター装備)とデスマルク大量に持ってきたのに~」(ホジホジ(鼻穿ってる)) 「「なぁ」」 『なぁ……じゃないです。主達……』 そしてその後の後始末についてだが未だバグの残るリインフォースは彼女の主、八神はやてに負担を掛けないため 消滅しようとしたが…… 「ちょっと、内部構造を私にわかるように見せてもらえませんか」 と、シリアスが言ってきたため見せたところ…… 「なるほど……ここをこうすれば治りますね」 と"ご都合主義に"持ち前の天才的な頭脳であっさりバグを除去してしまった。 しかし、防衛プログラムのような危険性はないらしいが別のバグが生じたらしく数日、 普通に生活しながら様子を見つつ無理のない除去法を模索していた所、 ある朝、朝一番にはやてと顔を合わせて一番 「主……できちゃったみたいです」 「はいぃぃぃぃ!!?」 というやり取りが起こり、とりあえず、詳しく調べてみたところ生じたバグは 惑星ロボラルドのロボットの種族保存装置に近いプログラムであり ユニゾンしたはやてとリイン双方のデータを基にできちゃったとのこと。 バグ自体の除去はバグの詳細がわかったため、簡単だったが既に"できちゃったもの"は流石に 取り除くのがためらわれ……数日後には八神家の家族が1人増えリインフォースⅡと名づけられたという。 ちなみにこのときは流石にはやてもリインもげっそりしていたという。ドランも同情の視線を送っていた。 さらにワルターであるが…… 「うおぉぉぉぉ!!」 「ワルター様~~~~!待ってくださいですの~~~~!」 逃げるワルター。それを時々キャロビットで威嚇射撃をしながら追っかけるシャランラ。何事かというと 「捕まってたまるか~~~~!」 「私達も子作りしましょう~~~~!二人の愛の結晶を~~~~!」 「や、やめてくれ~~~~!まだ、私はそういうことをする気はない~~~~!」 「ああん~~~~!ワルター様のいけずぅ~~~~!」 その一件に感化されたシャランラに子作りを迫られ逃げ回っていた。 「お子達、シリアス、キャプテン、カーネル!この際、父上でもいい!誰か助けてくれ~~~~!」 それに対する返答は…… ワルターと親しい者達の返答 「無理」 「バカ言うな」 「流石にそれは……」 「兄上、この際いいのではないですか」 『船長、そろそろ年貢の納め時じゃないですかい?』 「うう……このカーネル……生きているうちに若とシャランラ様の子が見られるとは幸せものです……」 「息子よ強く生きろ」 『悪太、気休めかも知れんが頑張れ』 魔導師の皆様の返答 「にゃはは……がんばってくださいとしか」 「正直、冗談きついです」 「えっと……そのうちいいことありますよ」 「あんなのの相手だなんてあたしゃ、二度とごめんだよ!」 「この際やし、ワルターさんもうちらの側に来たらどうや」 「死なばもろとも……」 「二度と来るんじゃねぇぞ!」 「骨は拾ってやる」 「私にもいい人いないかしら?」 「…………」 「艦長!この件は時空管理局としては」 「もちろん管轄外よ。あ、そろそろいったん本局に戻る時期だったわ。ねぇ、エイミィ」 「は、はい」 温かい言葉だった。 「おのれ~~~~~!人事だと思って~~~~!」 「ワルター様~~~~!」 「ひい~~~~!」 ワルターとシャランラに幸あれ。 単発総合目次へ その他系目次へ TOPページへ